2020年04月17日 1621号

【新型コロナウイルス 教育・医療がピンチ/抜本的人員増が命を守る/元凶は教育費・医療費抑制政策】

 新型コロナウイルスの感染拡大は、日本の医療、教育が抱える問題を浮かび上がらせた。命と人権を守ることを最優先にした根本的転換が求められている。

混乱に拍車

 安倍政権による学校での「新型コロナ」対策はでたらめのきわみだ。

 当初「学校設置者の判断で」としていた学校休校が、2月末に何の科学的法的根拠もなく突然の全国一斉要請した。その後も「再開」と「休校延長」が錯綜している。東京都は5月6日まで休校を決定し、大阪府、大阪市も同様に5月6日まで休校とした。刻々変わる「休校」「再開」に教育現場、子ども、保護者は振り回されている。その原因は、安倍政権がそれぞれの「弊害への対策」をセットで示さないこと、対策らしきものを示したとしても全くの無理難題で実効性がないという点にある。

 例えば「学校再開のガイドライン」は保健管理徹底として「家庭と連携して検温及び風邪症状の確認。家庭でできなかった児童生徒は保健室などで検温及び風邪症状の確認」とする。空港検疫で使う赤外線モニターや非接触型の体温計があるわけではない。脇に挟む体温計なら、相当の手間と時間を要する。

 「ドアノブ、手すり、スイッチなどは、消毒液などで清掃」。医療機関ですら入手困難な消毒液をどこで調達できるのか。学校の部屋数は100室前後ある。いつ、だれが消毒するのか。ただですら教職員の長時間・過重労働は社会問題となっている。全く現実を無視したガイドラインだ。

劣悪なつめこみ環境

 そもそもの元凶は「感染防止」と称して休校しなければならない学習環境だ。

 政府の専門家会議は避けるべき「集団感染3条件」として、(1)手の届く距離に多くの人がいる(2)換気の悪い密室空間(3)近距離での会話や発生―を示している。60uほどの教室に生徒をつめこむ現在の学習環境では、(1)と(3)は避けられない。

 日本の小中学校の学級定数は40人(小学校第1年のみ35人)。小中学校の平均は26人〜35人が最も多く、大都市圏では軒並み30人超え。高校に至っては40人は当たり前で40人超の教室もある。OECD(経済協力開発機構)加盟国との比較では、小学校では平均値の21人を上回り、データのある27か国中ワースト2の多さだ。中学校でも平均値23人を上回り、19か国中これもワースト2。

 定数が少ないほど教育効果が高いのは自明だが、生徒数・学級数を基準に決められる教員定数増を嫌い放置されてきた。歴代政権が緊縮財政を目指し教育にカネを出し渋る新自由主義政策をとっているからだ。

 「コロナ休校」で突然学習権が焦点化した感があるが、同じく飛沫・接触感染が主の季節性インフルエンザですでに学級閉鎖は年中行事化し、学年閉鎖・学校閉鎖の事態も引き起こしてきた。学習権のはく奪は今に始まったことではない。

 国際水準の学級定数であれば、安倍たちが言う「感染症対策」の休校は避けられ、日常の教育にも資する。




医療崩壊の危機

 厚労省は、新型コロナウイルスへの対応として「コロナの患者を重点的に診る施設と診ない施設を分ける」などの対策を都道府県に求め、「空きベッドを都道府県を超えて医療機関間で融通するための仕組みを導入する」などの「対策」をあわてて発表している。

 コロナ陽性確認者が急増する東京都では、すでに感染症指定医療機関のベッド数140床を上回り、指定を受けていない一般病院にまで入院させている。

 すでに医療機関、高齢者施設にまで感染が広がっている。しかも、感染予防のための資機材は不足し、中には「マスクは週1枚」、ポリ袋で防護衣を手作りする事態に陥っている。

 コロナ感染の入院患者から他の入院患者への感染を完全に防ごうとすれば、一棟またはワンフロア―すべてをコロナ病床にし、エレベーターは直通、空調設備は単独、スタッフは専属とし、他の病棟と完全に切り離す必要がある。医療従事者もマスクや防護衣など感染防護対策を十分にとらなければならない。でなければ、ダイヤモンド・プリンセス号の二の舞だ。一般病棟の患者は病気のある人ばかり。感染防止に失敗すれば、死者を増やしかねない。

 隔離がうまくいっても、コロナ病床転用前に入院していた患者の転院・退院の選択を迫られる。外来も急遽パネルで間仕切りし、患者の動線を分けたり、駐車場にプレハブの診察室を並べたりの努力を強いられている。

 大阪府は、指定医療機関以外の「看護師不足で空きとなっている」ベッド900床を「確保」し、加えて一般の宿泊施設も活用することを検討中だとする。愛知県は県所有の「入所施設」を100室確保し、医師・看護師を派遣するという。

 「看護師不足で空き病床」となっている病室に入院させて、だれに看護させるつもりなのか。「一般の宿泊施設」「入所施設」というが、分散すればするほど、医療スタッフや資機材の必要数が増える。

 常時人手不足の医療現場にどれだけ負荷がかかるのか。国も自治体も武漢やイタリア、スペインの医療崩壊を繰り返すつもりか。

総医療費削減が命を奪う

 イタリアの医療崩壊は、新自由主義政策の下での医療費抑制で、公的病院を中心に5年間で760もの医療機関が廃止されたことが背景にある。医療態勢が弱体化されたところに、ウイルスが持ち込まれ、あっという間に蔓延した。スペインも同様だ。医療費抑制政策のあおりで、医師・看護師の数が足りず、医療用手袋・ゴーグルなど感染予防に必要な資材すら不足している。コロナ対策に追われ、他の患者の治療が遅れて亡くなるケースも出ている。

 医療逼迫(ひっぱく)の背景は日本も似たり寄ったりだ。

 総医療費抑制政策で医師養成数は抑え込まれ、過労死ライン超えの労働を日常的に強いられている。看護師不足は一貫して変わっていない。

 感染症対策の命綱である公的病院をイタリアよろしく削減しようとしている。

 新型コロナは、50年も前ならば一地域の風土病で終わっていただろう。だが、グローバル資本主義の時代では、感染症は短時間で世界中を駆け巡る人とモノとともに運ばれる。安倍や維新は訪日外国人旅行を成長戦略とし、その一環としてオリンピックや万博など国際的大イベントを招致してきた。輸入感染症蔓延の危険性は格段に大きい。死亡率がコロナを大幅に超える感染症はすでに存在し、その蔓延となれば桁違いの命が失われる。だが、安倍はカネもうけのための予算には糸目をつけないが、市民生活や人権保障は一顧だにしない。それどころか緊急事態宣言発令から改憲への端緒にしようとしている。

根本的転換への岐路

 学級定数減・教員大幅増で国際水準の学習環境を実現することが、同時に感染症対策=子どもの安全・安心を実現する方策だ。総医療費抑制政策を転換し、医師・看護師をはじめ医療従事者の大幅増員で、日常的にゆとりを十分に持った医療態勢を構築する。

 強権政治を延命・強化させるのか、命と人権を守る政策へと転換を押し付けるのか。新型コロナは、その岐路だ。





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