2020年04月17日 1621号

【「なぜ一律現金給付じゃないのか」/アベノマスクに非難殺到/感染の自己責任化を象徴】

 「たった2枚でごまかすな」「マスクじゃなくて現金配れ」―。安倍晋三首相が新型コロナウイルス感染症対策として打ち出した「布製マスク配布」に大ブーイングが起きている。アベノマスクと揶揄される天下の愚策。その根底には「感染防止も自己責任」とする安倍政権の新自由主義的発想がある。

 「急拡大するマスクの需要の抑制を図り、国民の皆様の不安解消に少しでも資するよう速やかに取り組んでまいりたい」。4月2日の衆院本会議。自ら布マスクをつけて登壇した安倍首相はこう語った。

 布マスクは「洗濯してくり返し使える」タイプで、菅義偉官房長官の説明によると単価は1枚200円程度。これを日本郵政の配達システムを活用し、5千万あまりある全世帯に2枚ずつ配る方針だ。

 発案者の「経済官庁出身の官邸官僚」は「全国民に布マスクを配れば、不安はパッと消えますから」と首相に進言したという(4/3朝日)。おそらくは今井尚哉首相補佐官の入れ知恵だろうが、世論をなめているとしか言いようがない。

 布製のマスクは繊維の隙間(穴)が大きいため、不織布マスクよりも飛沫を防ぐ効果が小さい。くり返し使うと、雑菌がはびこり、かえって不衛生になる可能性もある。およそ300億円もの税金を投入して行うべき政策ではない。

 当然、疑問や批判の声が噴出した。ネット上では「アベノマスク」と命名される始末。個人的には「バカ殿(志村けん)が逝ってしまってリアルバカ殿が最高権力者という惨劇」という書き込みに、座布団を一枚あげたいと思う。

制限するなら補償

 人びとはなぜマスク配布に激しく怒ったのか。あまりのケチくささに失望したのはもちろんだが、施策の根底にある安倍政権の体質を見せつけられたからではないか。「新型コロナ対策も自己責任」という態度のことである。

 ウイルスの拡散を抑えるには社会的距離戦略、すなわち人と人の間の物理的な距離を保つことが有効だ。とはいえ、大半の人は働いて収入を得なければ生活を維持できない。だから危険を承知の上で働きに出たり、店を開ける。症状が出ていても隠す人もいる。要するに、外出制限等の措置は公的な生活保障とセットでなければ意味がないのだ。

 諸外国は現金給付や休業補償など様々な策を打ち出している。英国政府は休業に追い込まれた飲食店などに対して賃金を最大8割(月約32万円上限)を補償すると発表した。これによって、急速に客足が遠のいた飲食店の多くが「政府が補償するなら」と店舗閉鎖に踏み切ったという(3/27東洋経済オンライン)。

 フランスでは外出禁止措置にあたり、給与所得者には給与の8割を国家負担で支給。フリーランス等を含む事業者には一律1500ユーロ(約18万円)を補償する。スペインでは休業補償として原則賃金の100%が支払われる。

 様々な事例に対応できるのは現金の給付である。米国政府は大人ひとり1200ドル、子ども500ドルを現金支給することを決めている。4月と5月の計2回、4人家族なら約74万円が支給される計算だ。

貧弱な生活支援

 で、日本はどうか。いまのところ飲食店への特別貸付や融資、雇用維持のための助成金制度の特例措置が拡大された程度。休業補償は休校になった子どもの世話をするために仕事を休んだ場合に限られる(勤務先の企業がこの制度を使わない事例も)。「外出自粛」要請で大打撃を受けている文化・芸術業界に対しては、「税金で損失を補償することは難しい」(3/28安倍首相)と突き放すのみ。

 そして現金給付である。政府はもともと現金給付には否定的で、商品券の配布や旅行代金の助成を「景気対策」の中心に据えるつもりだった(個人の生活支援という発想ではない)。

 批判を受けてひねり出した「1世帯あたり30万円の現金給付」案にしても、対象は世帯主の月収が新型コロナ発生前よりも減少し、住民税非課税水準となる世帯などに絞られる。きわめて限定的だし、学生の場合、就職内定の取り消しで困っていても対象外だ。

 しかも自己申告制ときた。政府は証明書類の添付や、不正申請への罰則を設ける案も含めて検討する方針だ(4/3読売)。手続きが煩雑になり、本当に支援が必要な人がふるい落とされることは目に見えている。

 一律給付には「高額所得者が税で救済されるのは望ましくない」というもっともらしい批判があるが、ならば累進課税の強化等で回収すればいいだけのこと。選別に時間とコストをかけるなんて馬鹿げている。

 このように、人びとの行動を制限しても補償はしない(あくまでも自粛だから政府の責任ではない)という安倍政権の新型コロナ対策は、感染の自己責任化といえる。「マスクを恵んでやるから自分で防げ」ということなのだ。


またも大企業優遇

 アベノマスクの一件が証明したように、安倍政権下の日本は世界一の自己責任国家である。労働者・市民に対しては間違いなくそうだ。だが、大企業に対しては態度が違う。

 政府は感染拡大で影響を受けた大企業の財務基盤を強化するため、日本政策投資銀行の「特定投資業務」を活用して1千億円程度を出資する案を検討しているという(4/2共同)。苦境に立たされている人びとへの生活支援は渋るのに、巨額の内部留保(約460兆円)を貯め込んでいる大企業には大盤振る舞い。まさにアベコベではないか。

 今は感染拡大を抑えることを最優先すべきだが、愚かな政権の退陣を求めることまで「自粛」してはならない。これは命にかかわる問題なのだ。   (M)

MDSホームページに戻る   週刊MDSトップに戻る
Copyright Weekly MDS