2020年05月01日 1623号

【コロナ感染症が問うもの/経済格差がリスクの格差に/弱者を切り捨てる政治の変革を】

 安倍政権は4月16日、コロナ緊急事態宣言の対象区域を全国に広げた。一気に「戦時体制モード」が社会を覆った。「闘いに勝つために」と市民に「一体感」を強要するのはどの国の権力者も同じだが、それでごまかそうとするものがある。それは経済的不平等が感染リスクの格差となっていることだ。「ウイルスとの闘い」で問われているのは人間社会のあり方だ。

黒人の死亡率2倍

 新型コロナウイルスは4月19日現在、世界で230万人の感染者と16万人の死者(米ジョンズ・ホプキンズ大集計)を出し、日々その数は増加している。コロナ感染症は高齢者や持病がある者の死亡率が高い。それに加え米国の統計からわかることがある。経済格差が感染リスクの格差になっているのだ。

 世界で最多のコロナ死者を出している米国は感染者数73万人、死者3万7千人(4/19)を数える。中でも1万3千人に上る死者が出ているニューヨーク市が突出している。市当局が4月8日、人種・民族別の内訳を公表した。それによれば、ヒスパニックと黒人を合わせた死亡率(対人口比)は、白人とアジア系の合計の約2倍になっているという(4/9朝日)。デブラシオ市長は「医療格差や貧困と関係している」と背景を述べた。感染者数も、貧困層が多いクイーンズ地区などは富裕層が多いマンハッタン地区の2倍近くになっていることがそれを裏付けている。



 黒人やヒスパニック(中南米)系の職種はいわゆるエッセンシャルワーク(社会を支える必要不可欠な仕事)が多い。バスの運転手、清掃員、警備員、食料品店員、育児・擁護施設スタッフなどだ。低賃金、長時間労働と言いかえることができる。ソーシャルディスタンス(社会的距離)をとることもできず、医者に行く余裕もない。

 ニューヨーク以外でも同じことが起きている。シカゴでは人口の3割程度である黒人がコロナ死者数では7割を超える(4/11BBC)。黒人コミュニティーでは糖尿病や心臓疾患、呼吸器疾患も多いと指摘される。ミシガン州では人口で14%の黒人が感染者の33%、死者の41%を占めた。ルイジアナ州でも人口32%の黒人が死者の70%となっている。

 数字に現れないケースがある。在宅で死亡した場合、コロナ検査をしないまま葬られる場合が増えているという。検査能力が限界に達しているからだ。ニューヨーク市の場合、コロナ発生以前では通常毎日20人〜25人程度の在宅死であったものが今は200人を越えている(4/14yahoo!ニュース)。貧困層の死亡率はもっと高いと見なければならない。

 ウイルスは人種・民族を区別しない。貧困層を選んで侵入するわけではない。だが、明らかに貧困層の感染リスクは高い。これは政治の問題なのだ。

シカゴ市の人種別の死者数(人口10万人あたり) 画像をクリックで拡大

「休業」できる保証を

 ニューヨークのあとを追いかけているといわれる東京はどうか。特別区ごとの感染者率(人口あたり)を比較すると、上位から港区、新宿区、渋谷区と続く。港区は23区中最も平均年収が高い。ニューヨークとは逆の傾向だが「富裕層が多く、海外赴任や海外旅行からの帰国者が多い」(週刊現代4/25号)からだという。昼間人口との比をとれば順位は変わる。そもそも、まともな検査がされていない中で、データから傾向を読み取ることは困難だ。

 ただ、日本においても、ニューヨークでみた構図と変わりない状況がある。貧困層は、生活を維持するために感染のリスクを冒さざるを得ないのだ。

 安倍政権は、緊急事態宣言全国化に合わせ、人との接触を「極力8割削減」をあらためて強調した。ウイルスの感染ルートである人と人の接触を断つことは究極の方法だが、その選択ができない状況がある。

 「テレワーク」をしようにも設備がない。町工場ではもともと、テレワークなどありえない。感染源とされた「夜の街」。居酒屋が営業を続けたのには訳がある。テナント料が毎月必要だからだ。日々の稼ぎで暮らしている人にとって、休業は即無収入への道だ。政府がすべきことは、自らの健康を守る合理的選択ができる条件、生活の保障をすることではないか。

 すでに撤回はされたが、休校に伴う休業補償の対象から風俗関係者を除く方針があった。事業主への雇用調整助成金も風俗事業は対象から外されていた。支援を受けられない風俗事業者も労働者も無理に営業を続けてきたのだ。

 「経済」か「命」の選択をしているのではない。命のつなぎ方の選択なのだ。コロナに感染しなくても、生きていけないようでは、本末転倒といえる。

問われる社会のあり方

 特措法は、09年新型インフルエンザへの対応で無用なタミフル7700万人分の備蓄の法的根拠があいまいだったことなど怪しい対策を覆い隠すために12年5月制定に至った。その後も政府は反省することなく、感染症に対する体制を整えてこなかった。安倍政権がやったことは、「新型コロナウイルス感染症を新型インフルエンザ等にみなす」と付則に加える「改正」だけだった。しかも「みなし」の有効期間は21年1月31日まで。22年まで収束しないとの見方がある中で、感染症対策の見通しもこの政権にはない。頭にあるのは政権維持のことばかりだ。

 コロナウイルス流行を完全に封じ込むことはできないかも知れない。だが、重篤化を防ぎ命を守らなければならないし、被害を軽減することはできる。リスクの格差、貧困格差を解消することはできる。

 問われるのは社会のあり方だ。

 新自由主義政策が貧富の格差を拡大した。99%の人びとの富を吸い上げることで1%の富裕層が生まれた。弱肉強食のジャングルのルールを破棄することだ。誰の命も軽んじられてはならない。

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