2020年05月01日 1623号

【新型コロナとグローバル資本主義/自然を壊し引き寄せた危機/医療を切り捨て惨事拡大】

 エボラ出血熱、SARS(重症急性呼吸器症候群)、そして新型コロナウイルス感染症…。近年、新しい感染症が続々と出現し、世界規模で猛威をふるうようになった。その背景には、環境破壊が引き起こした生態系の変化がある。今日のコロナ危機はグローバル資本主義のリスクが顕在化したものなのだ。

種の壁越えヒトへ

 コロナウイルスは形状が王冠に似ていることから、ギリシャ語で王冠を意味するコロナという名前がついた。かぜの原因の10〜15%を占める、ごくありふれたウイルスである。

 近年、動物を宿主(しゅくしゅ)とする種類のコロナウイルスがヒトに感染し、命にかかわる重症肺炎を引き起こすようなった。2003年のSARS、2012年のMERS(中東呼吸器症候群)、そして今回の新型コロナウイルス感染症(COVID−19)である。

 ウイルスは他生物の細胞に寄生して増殖する。人類が治療薬やワクチンを開発しても、ウイルスは変幻自在に変異して防御手段をかいくぐる。ウイルスとのせめぎ合いが軍拡競争にたとえられるゆえんである。

 新型コロナウイルスにはSARSやMERSのウイルスにはない特性がある。せきや発熱などの症状が出る2〜3日前から、あるいは無症状の場合でも別の人に感染する。だから多くの人びとが感染に気づかないまま、ウイルスを広げている可能性が高い。

 このため、新型コロナ感染症は予防や封じ込めが容易ではない。擬人的な言い方をすれば、私たちに警戒心を抱かせず、より拡散させるようにウイルスが進化したのかもしれない。

予測された感染拡大

 過去半世紀の間に、新興感染症と呼ばれる新たな感染症が多数出現した。このなかにはエイズやエボラ出血熱をはじめ、鳥インフルエンザ、SARS、MERSなど、野生動物が媒介する、死亡率が高い感染症も含まれている。

 新興感染症の出現は世界規模で拡大した環境破壊と密接に関係している。人口の急増や経済の拡大にともなう大規模開発や都市化が進んだ結果、自然本来の安定したシステムが崩れてしまったのだ。

 具体的には、湿地や森林の破壊などによって本来の生息地を追われた野生動物が人里に押し出され、人間にとって未知の病原体を拡散させるようになった。英国の環境学者ケイト・ジョーンズは「野生動物から人間への病気の感染は、人類の経済成長の隠れたコストだ」と指摘する。

 また、グローバル化が進み、人や物の行き来がこれまでになく迅速・大量になったことで、地球上のどこかで感染症が発生すると瞬く間に世界中に広がるようなった。しかも、過密化する都市は病原体にとって絶好の温床である。

 このように、グローバル資本主義が感染症の新たな脅威を引き寄せたことは明らかだ。多くの学者は「今後も新たなウイルスは現れる」と警鐘を鳴らす。今回のコロナ危機は想定しうる事態だったのだ。

医療崩壊は人災

 だが、危険な感染症の世界的流行が警告されていたにもかかわらず、利潤追求最優先の新自由主義政策をとる多くの国ぐには、その対策のための予算を削減したり、公的医療制度の解体を進めてきた。

 新型コロナウイルス感染による死者の増加が止まらないイタリアがそうだ。かつては世界で最も優れた医療態勢を持つ国の一つだったが、2007年以降の世界金融危機を機に政府が医療費の抑制を進めた結果、今回のような感染爆発に対処できなくなった。

 米国はどうか。すでに2009年と2018年のインフルエンザ流行期に全国の病院がパンクしていた。入院患者の受け入れ能力を利益優先(病床の稼働率を上げる)のために削減してきたからである。

 そして日本。政府や御用学者は「日本の医療態勢には余力があるので医療崩壊は起こらない」との楽観論をふりまいていたが、現実は違った。全国各地で新型コロナウイルスに対応できる病床がひっ迫している。特に重症者の救命にあたる集中治療室が機能不全に陥る可能性が高い。人口10万人あたりの病床数はイタリアの半分以下、米国の7分の1しかないからだ。

 安倍晋三首相が「病院再編と過剰な病床の削減」を関係閣僚に指示したのは昨年秋のことだった(10/28経済財政諮問会議)。厚生労働省は対象となる公立病院のリストまで作成し、一方的に公表した。その病院が今、コロナ患者の受け入れを求められている。

 今なおカネ儲け第一主義を改めない連中にコロナ対策を任せていては、人びとの命は守れない。 (M)

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