2020年05月08・15日 1624号

【新型コロナ/専用病床新設を 医療資材の確保を/公的責任で命と地域医療守れ】

 新型コロナウイルスによる「医療崩壊の危機」が連日メディアで報じられている。各自治体は窮状を乗り越えようと対応に追われ手を打っているが、現状の対策でいいのか考えてみたい。

 今伝えられる「医療態勢の崩壊」は、主に「コロナ患者の救命ができない」事態を指している。原因は、感染症指定医療機関の圧倒的な不足にある。これはすべての対策の前提であるPCR検査が少ない口実ともされてきた。

 現在行われている対策は、患者の重症度によって受け入れ先を振り分けるものだ。無症状感染者や「軽症者」は自宅や宿泊施設で観察。軽症者以外は指定医療機関のみならず、一般病床でも受け入れ。これが、ベースになっている。

 「緊急事態宣言」で「特定警戒」とされた13都道府県のうち、東京都に次いで感染者数が多い大阪府は、大阪市の十三(じゅうそう)市民病院を新型コロナの専用病院とした。松井市長は「重症者には入院施設が準備され、軽症者の滞在場所は大阪府が宿泊施設を準備している。問題は中等症患者のベッドが今後不足することだ」とし、新型コロナ感染者のうち酸素吸入などが必要な人=「中等症患者」を専門に受け入れるとした。


日常診療にしわ寄せ

 根本的な問題は、総医療費抑制政策の下での日本の医療供給態勢だ。国際的にも医師数は少なく、人口当たりのICU(集中治療室)は多くの死者を出したイタリアやスペインを下回る。そのうえ、新型コロナのPCR検査数は極端に少なく、感染防護資材も枯渇している。この条件を前提に「新型コロナ肺炎重症者の救命」を目標とすれば「一般病床の感染病床化」は選択肢のひとつではあろう(大阪市政による医療切り捨てについては別稿参照)。

 だが、十三市民病院の新型コロナ病院化で、出産間近の妊婦や手術予定が決まっていたがん患者まで退院を余儀なくされた。全国的にも新型コロナ患者の重症者を受け入れるため救命救急センターなどで患者の受け入れ制限や停止を決めている病院が出てきている。

 守るべきはコロナ重症者のみではない。医療を必要とするすべての人びとへの医療供給態勢だ。この視点に立てば対策は違ってくる。


検査・診療の充実が必要

 重症者対応に四苦八苦するのではなく、重症化させない早期発見・早期治療に重点を置く。

 一部地域で始まっているドライブスルー検査やウォークスルー検査を拡大する。それも、現状のように行政が制限するのではなく、医師の判断で検査できるようにし、感染者の早期発見を徹底して医療管理下での隔離につなげる。

 有症者の受診は東京都医師会のように、専門の外来を設ける。公共機関の駐車場などに設置し、地域の診療所の汚染を極力抑える。陽性者は、世界各国で行われているように公共の土地や見本市会場など大規模公共施設にたとえプレハブでも専門病床を新設し収容し、医療者を派遣。巡回して健康管理し重症化する前に医療機関に搬送する。埼玉県ふじみの救急クリニックは民間の診療所であるにもかかわらず、駐車場に専門の病室を作り、24時間態勢で検査も受け入れている。

 行政がカネを出し渋らなければ十分可能だ。現に中国武漢では、4千床の専門病床を2週間余りで新設した。施設設備の新設と医療従事者の派遣調整は、行政の責任だ。ホテルに分散収容するよりも医療者の負担は減るし、埼玉県で起こった自宅待機者の死亡のような事例も防げる。

 加えて、災害にも備えなければならない。あとひと月もすれば、今年も風水害の季節が到来する。日本の劣悪な災害避難環境では、例えば避難所の体育館がそのままクルーズ船のようにウイルス培養器≠ノなるのは目に見えている。

資材は自治体直営で

 感染病床を一般医療機関で確保しようとすれば、入院患者が退院を余儀なくされる。しかも、入院治療が必要な「ハイリスクグループ」と同じ建物で新型コロナ患者が入院することとなる。

 患者間の感染リスクが高まるため、医療者は常日頃以上の院内感染対策を強いられ、動線を完全に分けるなど施設設備利用の制約を受ける。自らの感染防護のために、様々な手順が増え業務量は激増する。

 そのうえ、感染防護のためのN95マスクや医療用ガウン、タイベックススーツ(防護服)は不足している。マスクやタイベックススーツは中国など賃金の安い国に生産が集中しており、先進国が争奪戦を繰り広げている。完全な売り手市場で高騰し、100万枚単位でしか受注しないといった事態にまで至っている。

行政は医療現場を支えよ

 しかし、医療現場を支援すべき行政は有効な手立てを打てていない。それどころか、WHO(世界保健機関)が「どんな場合も推奨しない」とする「布製マスク」配布に466億円もの予算を計上する始末。全くのピント外れだ。466億円あれば、例えば各都道府県に工場を建設可能だ。自治体直営工場で製造し需給調整すれば、地域の医療機関にくまなく配布できる。

 感染症専用病床と同じく公共用地に建てれば、用地費は不要。一都道府県あたり10億円を施設設備につぎ込める。オリンピック、万博、カジノ誘致予定地をはじめ全く不要不急≠フ公共用地はいくらでもある。

 新型コロナ対策は、市民の多くが抗体を獲得するまで続く。先を見越して先手を打たなくては、助かる命も助からなくなる

 まず、対策の前提である感染者の早期発見・実態把握、医療管理下での隔離、早期治療による重症化防止へ、国・自治体の予算と人員を投入しなければならない。守らなければならないのは、新型コロナ肺炎重傷者の命だけではない。総医療費抑制政策の逆風に抗し、医療者が長年の努力で築いてきた患者のための地域医療態勢だ。
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