2020年05月08・15日 1624号

【原発避難者追い出し訴訟 外出制限の中を福島へ呼び出し】

 福島県は3月25日、東京の国家公務員宿舎に住む区域外避難者4世帯に明け渡しと損害賠償金を求め福島地方裁判所に提訴した。これに対し同27日、「ひだんれん(福島原発事故被害者団体連絡会)」と「『避難の権利』を求める全国避難者の会」は共同で福島県知事に緊急要請「今こそ避難者住宅の抜本的な転換を求めます」を提出し、立ち退き提訴をやめるよう訴えた。

 県は、両団体の質問書に「希望する地域での新たな住まいの提案など話し合いによる解決を目指してきたが、調停も不成立に終わった」「都営住宅の案内や避難者・移転サポート事業を活用した情報提供を行ってきたが、今後も話し合いでの解決が困難であるため」と回答。まるで、県側が十分努力してきたのに断ってきた避難者はわがまま、と言わんばかりだ。

 しかし、県が実際にやってきたことは、都営住宅の応募資格がない者に公的住宅の確保を行うのではなく都営住宅応募の案内書を渡すだけ。民間住宅紹介と言っても、インターネットの賃貸住宅情報で調べた高い物件だけ。家賃値下げ、敷金礼金免除の交渉や初期費用援助をしようともしないのが実態だ。

 避難当事者は、精神疾患や持病を抱える中高年者で、定職には就けない状況にある。避難前の預金と避難先でのアルバイトや年金で生活をつないできた。新型コロナ感染拡大による行動制限の下で不安は募り、経済的にも精神的にも追いこまれている。生活困窮者を救うべき行政が、不安な日々を送る避難者を路上に放り出そうとする甚だしい人権侵害に出たものだ。

意見表明の場を奪う

 福島地裁からは4月6日付で4世帯に訴状が送られ、連休明けの呼び出しが通知された。当事者は「緊急事態宣言が出て外出が制限されているときに、何時間もかけて電車でリスクを冒して福島まで来いというのか」「アルバイト先を休むことになると休業補償でもしてくれるのか。1万円以上の交通費を出してくれるのか」。冷酷な県の福島地裁提訴に怒りをぶつける。

 当事者は「県の間違いを正す。これまでの経過を明らかにしたい」と東京地裁での審理を強く要望している。避難者が自らの正当性と窮状について意見表明する場すら奪う福島での審理は、言論の封じ込めと言わざるを得ない。

 当事者は「原発事故で母子避難してきた。安い物件があったらもうとっくに引っ越していた。何も悪いことをしていないのに、犯罪人のように扱われ理不尽だ」(女性)「都営住宅を希望したが10回落選して疲れている。精神疾患があり定職は務まらない。あくまで話し合いを求めてきたが、強行されて悔しい。皆さんのご理解ご支援を」(男性)と訴えている。

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