2020年05月08・15日 1624号

【未来への責任(297) 大韓民国憲法の核心的価値】

 大韓民国憲法の前文には「三・一運動により建立された大韓民国臨時政府の正統性…を継承」すると書かれている。

 1919年の上海臨時政府の「大韓民国臨時憲章」は、「民主共和制」「男女貴賎及貧富の階級が無く一切平等」「信教言論著作出版結社集会信書住所移転身体及び所有の自由の享有」「公民資格を有する者の選挙権及被選挙権」「生命刑身体刑及び公娼制の全廃」を掲げた。女性の参政権を認めていない20世紀初頭に男女平等・普通選挙権を掲げていたのである。実際臨時政府の議会には女性議員もいたという。さらに、生命刑(死刑)の廃止、公娼制廃止、社会経済的平等もめざしていた。

 2018年10月に元徴用工被害者の「強制動員慰謝料請求権」を認めた大法院判決は2012年5月の大法院判決に基づいている。下級審で請求棄却されたこの事件について、大法院は「日本の不法な支配に因(よ)る法律関係の内、大韓民国の憲法精神と両立しえないものは、その効力が排除されるとみなければならない。それならば日本判決の理由は、日帝強制占領期の強制動員自体を不法と見ている大韓民国憲法の核心的価値と正面から衝突するものなので、このような判決理由が込められた日本判決をそのまま承認する」ことはできない、としてソウル高裁に事件を差し戻した。強制連行は人権尊重を掲げる「大韓民国憲法の核心的価値」に反するというのである。

 この大法院判決を受けて出された2013年のソウル高裁差し戻し審判決は、被害者の請求権が日本の戦後処理のために作られた企業再建整備法などによって消滅させられた点について「日本国憲法の場合にも第9条で…過去に日本政府が起こした侵略戦争の惨禍に対する反省に基づき、永久的な平和を念願し国際社会で名誉ある位置に立つことを憲法的な価値と掲げている点に照らしてみれば、日本の過去の侵略戦争の必要に応じて成された欺罔(きもう)的な募集や徴用を通じて、人権を侵害する不法行為を行った軍需業体にまで、その不法行為に基く損害賠償責任を免脱させる内容の法律、その他規範の効力をその文言通りに解釈することは、日本国憲法の価値」に反するのではないか、と述べた。憲法9条に違反するような法律解釈は無効とすべきであるというのである。

 日本国憲法は「基本的人権の尊重」「平和主義」を掲げている。しかし日本の司法がここまで踏み込んで個人の人権保障、憲法9条解釈を行ったことはない。私たちも改めて憲法の「核心的価値」を振り返って考えてみなければならない。

(日本製鉄元徴用工裁判を支援する会 中田光信)

MDSホームページに戻る   週刊MDSトップに戻る
Copyright Weekly MDS