2020年05月29日 1626号

【新型コロナ経済対策―いまだに「検討」安倍政権/高いハードル 機能しない「支援策」/拡充迫る市民の闘い 重要】

23か国中最低の評価

 新型コロナの新規感染者は減ってきているが、休業、営業自粛による影響はこれから拡大する。コロナ関連倒産は150件を超え(5/15帝国データバンク)増え続けている。



 だが、新型コロナ緊急事態宣言の部分解除にあたって、対策本部長安倍晋三首相が言及した経済対策は「雇用調整助成金を1日1万5千円まで引き上げる」こと以外に具体的なものはなかった。「第2次補正予算の編成に着手する」の言葉には「遅い」としか言いようがない。

 その内容はどんなものか。雇用調整助成金の上限引き上げの他、労働者向け直接受給制度創設、中小・個人事業者向け家賃補助、アルバイト学生支援などだ。いずれも第1次補正に反映すべきものだったにもかかわらず、いまだに政策化されていない。

 特に「家賃補助」は月々の支払いに間に合わなければ意味がない。新型インフルエンザ等特措法第58条には債務支払い延期措置を講じることができる規定がある。政府が「緊急事態措置」としてしなければならないことは、こういうことだ。

 安倍は緊急事態宣言で市民に自粛を要請しながら、自らが負うべきウイルスの拡散防護にも経済対策にも、まったく責任を果たすことなく、無策ぶりをさらけ出した。海外の調査会社が23か国・地域で行ったコロナ対策の指導者評価で、最低だった(5/8時事)のも納得できる。


看板倒れの「対策」

 看板とした雇用調整助成金の現状はどうか。4月24日時点で、約20万件の相談に対し支給決定はわずか282件。0・1%に過ぎない。これでは上限額を引き上げようが役に立たない。なぜこうなるのか。

 支給申請には労働者代表との休業協定などの計画届と、休業・教育訓練実績一覧表などの複雑な書類作成が求められる。問い合わせが殺到した窓口のハローワークはパンク状態になった。日頃から、高いハードルで使いづらい制度であり、実施体制すら整っていないのが現状なのだ。

 安倍は、事業者が申請しない場合でも労働者が直接受け取れる制度を創設すると言った。あれほど嫌がっていた労働者への直接給付だが、批判の声に踏み切らざるを得なかったのだろう。だが、雇用調整助成制度が実際には機能しない現状を見れば、「新たな看板」を掲げただけに終わることもありうる。加藤勝信厚労相は「あくまで労働者を休業させた事業者の義務」(5/15)と労働者給付制度には慎重さを見せているからだ。

 休業手当一つとってみても、どれほどセーフティーネットが使いにくく、困窮者を遠ざけるものになっているのかがわかる。制度を生かす役割を負う公務員の非正規化・削減が拍車をかけているのだ。

 ではどうするか。平和と民主主義をめざす全国交歓会(ZENKO)をはじめいくつもの市民団体などが政府や自治体に対策拡充や手続きの簡素化、要件の緩和を求め、交渉を行っている。大阪弁護士会は「生活保護制度及び住居確保給付金制度の要件緩和と積極的活用」を求める会長声明を出した(5/12)。ブラック企業や外国人労働者問題に取り組む市民団体や研究者、弁護士などがつくる「生存のためのコロナ対策ネットワーク」も緊急提案を出している(4/24)。

99%が闘いの当事者

 こうした闘いが、看板倒れに終わらせない行政への強制力になっていく。給付などを「施し」ではなく、生存権保障の制度として確立していく足がかりになる。

 コロナ禍が明らかにしたのは、グローバル資本が生み出した経済的社会的格差の拡大が命の格差に直結しているということだ。貧困は個人の責任ではない。99%の人びとは、生存権を脅かされる当事者であることを実感し、共有した。

 感染リスクを減らす行動を自律的に行わなければならないことは言うまでもない。その上で、生活の緊急事態にあたって、生存権保障を求める闘いはより重要性を増しているといえる。
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