2020年05月29日 1626号

【年金法改悪案 コロナに紛れて年金削減/高齢者の不安定雇用が拡大】

 コロナ禍のどさくさに紛れて安倍政権は重要法案を充分な審議をさせずに次々と成立させようとしている。年金法改定もその一つだ。

 年金の受給開始年齢は現在、60歳から70歳まで選ぶことができる。ただし、65歳より受給を早めると月0・5%減額となり、遅らせると月0・7%増額される。今回の改定は、前倒し受給の減額率を0・4%とし、あわせて受給開始を75歳にまで広げるものだ。

 安倍首相は4月14日の衆院本会議で、「(受給開始75歳なら)84%まで割増」と強調した。「月15万円の年金が月27・6万円になる」と喜んではいけない。その真意は年金支給額を減らすことにあるからだ。

471万円の損

 「損得」を計算してみよう。

 基準年齢の65歳から85歳までの20年間では、計算上15万円×12か月×20年=3600万円を受給できる。ここから住民税・所得税42万円(4/17衆院厚労委員会年金局長答弁)を引くと、3558万円となる。では受給を遅らせるとどうか。75歳から85歳までの10年間では27・6万円×12か月×10年=3312万円。住民税・所得税225万円(同)を引くと、3087万円。75歳から受給した場合、471万円の損となる。

 年金額が増えると、国民健康・後期高齢者医療保険料も増える。各自治体によって違いはあるが、月15万円の年金の場合で月額1800円程度である保険料は、月27・6万円では月額約1万7千円となる。年金受給額はさらに減ってしまう。

 年金局長は「85歳までの総額で比較するのは適切でない」と言い訳をした。75歳から受給の場合、90歳を越えれば総受給額は増えることになるからだ。ところが、男性の平均寿命は81・25歳、女性でも87・32歳(2018年)でしかない。「84%増額」との宣伝の裏にはこうしたまやかしが隠されている。90歳を超えてはじめて65歳受給と同額になる仕組みは、つまるところ年金支給額を減らす巧妙な手口でもある。


開始年齢を引き上げ

 安倍政権は、年金受給基準年齢65歳そのものを遅らせることをもくろんでいる。すでに財務省は18年4月11日、財政制度審議会の分科会に68歳への引き上げを明記した資料を提出していた。「後世代の給付水準の確保や高齢就労の促進、年金制度の維持・充実といった観点から、支給開始年齢の引き上げを検討していくべき」。この財務省の68歳基準案は決して消えていない。そのための条件づくりが今回の年金法改定なのだ。

 これまでの年金改革は年金額削減攻撃であった。例えば、マクロ経済スライド。「少子高齢化」前提とした受給水準の自動的切り下げシステムであり、国民年金の所得代替率(現役世代の手取収入との比率)は現行より約30%も減ることになっている。今回は受給年齢引き上げを狙っているのだ。

 実はすでに、改定高年齢者雇用安定法が3月31日に成立し、来年4月に施行される。企業は、70歳までの就業確保に努めることを義務付けられ、定年の廃止や延長、継続雇用制度を設けることなどが求められる。しかし、高齢者にとって年金減額と年金受給年齢引き上げとなれば、否が応でも働き続けざるをえくなる。企業は、この弱みに付け込んで無権利かつ不安定雇用を強いることができるのだ。

   * * *

 「年金に頼らず、死ぬまで働け」が安倍政権の作り出そうとする社会なのだ。年金制度の目的である憲法第25条「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」の実現とは全く逆行する姿だ。公費による最低保障年金など高齢者が安心して暮らせる年金制度へと変革しなければならない。

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