2020年05月29日 1626号

【たんぽぽのように(13) 労働災害という名のウイルス 李真革】

 「国際労働災害犠牲者追悼日」の次の日、メーデーを2日後に控えた4月29日、京畿道利川(キョンギドイチョン)市にある物流倉庫の建築現場で火災が発生した。この事故で38人の労働者が死亡した。ソウルに近く大型物流倉庫が多いこの地域では、2008年にも同様の事故が発生し、40人が死亡した。

 サーズ(SARS)とマーズ(MERS)から学習し、新型コロナウイルスの対応では成功している韓国で起きた労働災害だ。火災が発生した利川の物流倉庫工事現場は、監督機関から3回の火災注意の警告を受けていたことが明らかになった。しかし、この警告にも建設会社は特別な措置をしなかった。火災という事故ではなく、多重下請けの構造と親会社の無責任がもたらした企業殺人と表現してもいいだろう。

 昨年、韓国の労働災害死亡者数は、2020人に上る。毎日、7人の労働者が出勤して帰宅できないのである。では、なぜウイルスの徹底的な防疫措置のように労働災害の予防措置が取られていないのだろうか?感染症に対する政府の責任ある行動は、なぜ労働現場では実践されないのだろうか? 何がこの違いをもたらすのだろうか? 今回の事故を契機に「重大災害企業処罰法」の制定を求める声が再び高まっている。

 韓国の労働者たちの日常は多数の危険にさらされており、新型コロナウイルスはその日常をより危険にした。この感染症は決して平等に被害をもたらすものでないことを、私たちは毎日のように確認している。日常的な経済活動が難しくなり、生存への脅威を受ける人が増え、世界各国は支援策を設けている。

 韓国は議論の末、1兆円ほどの災害支援金を予算編成したが、人口5千万で割ると1人当たり2万円程度だ。他国に比べると、その額はあまりにも少ない。そして、外国人の場合、これすらも受けられない人が多い。一方、企業の支援のために文在寅(ムンジェイン)政権が準備した予算は24兆円に達する。

 去る5月10日、文在寅大統領は就任3周年記念演説で、新型コロナウイルスの対応への自信をもとに「世界の模範となって、世界をリードする国になる」と述べた。もしかしたら、労働災害という言葉の後にウイルスを足して使うならば、政府も労働災害をなくすために、もう少し努力するだろうか。

(筆者は市民活動家、京都在住) 
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