2020年05月29日 1626号

【コロナ自警団、自粛警察はなぜ/権力の「お墨付き」を得たリンチ/見せしめ政治が差別を拡散】

 新型コロナウイルスがらみの嫌がらせや差別が各地で相次いでいる。「コロナ自警団」などと呼ばれる現象の特徴は、公権力の「お墨付き」を得たリンチ(私刑)であること。政治が差別を利用することの危うさは歴史を見れば明らかだ。

現代の魔女狩り

 中世ヨーロッパの「魔女狩り」ならぬ「コロナ狩り」が、21世紀の日本で起きている。コロナ感染者やその疑いのある人を中傷したり、自粛要請に応じない人を「非国民」視する風潮だ。報道された事例をいくつかみていこう。

 集団感染が発生した京都産業大には「殺す」「この時期に海外旅行なんて生物兵器かよ」といった脅迫電話やメールが寄せられた(4/8北海道新聞)。三重県では、感染者の家に石が投げ込まれ、壁に落書きされた(4/22朝日)。

 コロナ感染を知りながら山梨県に帰省した20代の女性はネットで「コロナ女」「テロリスト」と袋叩き状態に。実名などを特定する「まとめサイト」が乱立し、勤務先や友人にまで攻撃が及んだ(5/12朝日など)。

 入院患者が感染していることが判明した茨城県内の病院には「病院の風下にウイルスが飛んできたら、どう責任を取るのか」という電話が殺到、職員が対応に追われた(5/14読売)。関東地方では、訪問看護師が「お前のせいで感染が広がるだろう」と路上で責められた(4/15毎日)。

 徳島県では県外ナンバーの車が傷を付けられたり、あおり運転をされたりする被害が相次ぎ、自衛のため「県内在住者です」と書かれたステッカーが売られる事態となった(5/9時事)。「標準語を話す人は隔離対象」「県外から来る人には何かしら罰則規定を決めていい気がする」といった書き込みも(4/9NHK)。

 そして、「自粛警察」と呼ばれる動きである。パチンコ店や飲食店だけではなく、公園などで遊ぶ子どもまでが警察に通報される事例が多発した。福岡県では「子どもを外で遊ばせるな」という趣旨の紙が家庭の郵便受けに投げ込まれた。危害を加えるような言葉も書かれていたという(5/13西日本新聞)。

自然発生ではない

 このような人権侵害がなぜ頻発しているのか。メディアや識者の見立てはこうである。「生活への不安や欲求不満で攻撃性が高まっている」「感染者が悪いと決めてかかることで、不安や恐怖から逃れようとしている」「抜け駆けはずるいという嫉妬心」「日本人の国民性である“空気読め”という同調圧力」等々。

 どれも間違いではないだろう。しかし、嫌がらせ・差別行為が公権力やメディアが「社会悪」と指定したものに向けられていることを見逃してはならない。いわば「お上のお墨付き」を得てのリンチなのだ。

 営業を続けたパチンコ店を目の敵にしたキャンペーンは言うまでもない。山梨県に帰省した女性の件では、県が詳細な行動履歴(友人とバーベキューをした等)を公表したことがバッシングに火をつけた。市会議員が若者の感染者を「殺人鬼」と中傷する事例もあった(大阪府泉南市)。

 行動制限を徹底したい政府・自治体当局にしてみれば、人びとの恐怖心を利用して相互監視をさせるのは、効果的な手法である。「自粛」に協力するすべての者に補償金を出すよりもはるかに安上がりだ。感染者を「コロナをうつす加害者」扱いして叩く風潮も、行政の責任に目を向けさせないという意味では好都合というわけだ。

 最近になって、「自粛警察」を批判する報道が増えたのは、経済活動を再開したい政府が軌道修正を図っていることのあらわれだろう。しかし、いったん煽られた差別感情は都合よくコントロールできるものではない。権力の思惑を超えた災厄をもたらすことは歴史が証明している。

関東大震災の教訓

 関東大震災(1923年9月)の直後、「朝鮮人が暴動を起こしている」「井戸に毒を入れた」といった流言が広がる中、多くの朝鮮人が虐殺される事態が発生した。政府や警察自身がデマを触れ回ったり、「朝鮮人の襲来」に備えた自警団の組織化を促した。つまり、権力が「お墨付き」を与えたことが自警団による虐殺を後押しし、震災の被害が少なかった地域にまで惨劇を拡大させたのだ。

   *  *  *

 コロナ禍を機に、東京都の小池百合子知事や大阪府の吉村洋文知事、そして吉村が属する「維新の会」が人気を集めている。彼らは、人びとのネガティブな感情(差別、偏見、嫉妬など)を刺激して味方につける手法に長(た)けている。歴史修正主義者でもある。なるほど、自分が危険な存在であることを覆い隠そうとしているということか。  (M)

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