2020年06月05日 1627号

【新型コロナ/国は責務を果たせ/家賃・債務は猶予、帳消しだ】

各国は家賃支払い猶予

 安倍首相は5月25日、新型コロナに関する緊急事態宣言を全面解除した。

 4月7日以来49日間に及ぶ緊急事態宣言下の営業自粛や外出自粛は、国民生活、とりわけ小規模事業者を苦境に追い込んだ。特に、従業員の給与と家賃の負担が深刻だ。

 居住用の賃貸物件の居住者は借地借家法である程度守られているが、飲食店など事業用物件は保護法制がなく廃業を選ぶ事業者が続出している。たとえ宣言が解除されても途絶えた客足がもとに戻ることはないという判断からだ。

 こうなることは早くからわかっていた。北海道は2月28日、知事が独自の緊急事態宣言を発出し外出自粛・営業短縮を道民に要請した。その際、テナントビル運営会社による独自の家賃の支払い猶予が美談≠ニして報道されていた。

 各国は3月にはすでに政府が手を打ってきた(表1)。ドイツに至っては、支払いの2年間猶予だ。だが、日本政府は要請のみで何ら法整備に手を付けてこなかった。4月28日になって野党が法案を提出したが、ひと月近くたっても委員会審議にすら付託されていない。明らかに政府と国会の役割放棄だ。


必要性は与野党共通

 安倍の緊急事態宣言の法的裏付けとなった新型インフルエンザ等特措法第58条は、病気の蔓延によって緊急事態宣言が発せられた際に「緊急の必要がある場合」は、国会閉会中でも内閣が「金銭債務の支払い」の延期について政令を制定することを可能とし、そののち、直ちに国会を召集して延期が引き続き必要な場合は立法すると定める。

 「金銭債務」とは「金銭を支払う義務」であり、その猶予は、債権者(お金を受け取る側)の私権制限だ。私権制限は通常法律でしかできない。内閣の判断で可能としたのは、国民生活への影響が急速で甚大だと理解されていたということだ。 新型コロナによる改定前の特措法は、2012年、民主党政権下で制定されたものだが、当時野党だった自民党・公明党も全員賛成している。

 そうであれば、新型コロナ発生時開会中だった国会で、政府提出法案として速やかに立法化するべきだった。

野党法案成立から拡張へ

 「金銭債務」は金銭の支払い義務≠セから事業用家賃にとどまらない。居住用家賃はもとより、運送業の自動車リース料、授業料、奨学金、住宅ローン、公的・私的保険料、税、公共料金と多岐に及ぶ。

 特措法は「国税」のみ規定しているだけで、政府はその他の一部について、債権者である各事業者に特別措置を「要請」しているに過ぎず(表2)、猶予の可否は個別の交渉次第。これでは、市民の生存権や幸福追求権を政府が守ったことにならない。立法による市民生活擁護が政府の責務だ。支払い猶予で生活に困窮する債権者には、基準を設けて政府が補償すればよい。



 財源は作れる。大企業・富裕層への課税強化だ。東日本大震災では、「復興特別税」として法人税1割増、所得税2・1%増にした(法人は自公政権が2年で廃止)。新型コロナは災害である。東日本大震災の先例にならえば可能だ。

 4月28日に続いて野党は5月11日に「授業料・奨学金の減額・免除」の法案を提出した。また、生活支援のために児童扶養手当受給者への臨時特別給付金支給の法案も提出している。

 まず、野党法案を成立させ、これを突破口に対象を広げ、長期間の債務支払い猶予や帳消しへと拡大していこう。
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