2020年06月05日 1627号

【検察庁法改悪に失敗、政権大揺れ/「黒川辞職」で幕引き許すな/違法の閣議決定を撤回せよ】

 抗議のうねりに圧倒され、検察庁法改悪の今国会強行を断念した安倍政権。検事総長に据えるはずだった黒川弘務・東京高検検事長も賭けマージャン報道で辞職に追い込まれた。だが、悪らつな安倍応援団は「黒川辞職」を利用して、問題のすりかえと幕引きをくわだてている。

御用新聞の助け舟

 安倍官邸の意向をいち早く知りたければ、読売新聞を読めばいい。この御用新聞は官報的役割をはたすだけではなく、情報操作(謀略宣伝)の手伝いもする。安倍晋三首相が「熟読」を勧めるゆえんである。

 その「読売」が5月23日付の朝刊で、検察人事をめぐる官邸の内幕記事を掲載した。記事によると、「黒川検事総長」の実現に熱心だったのは、菅義偉(すがよしひで)官房長官や警察庁出身の杉田和博官房副長官、北村滋国家安全保障局長であり、彼らが法解釈の変更による定年延長などを主導したという。

 「この間、首相が指導力を発揮することはなかった」と記事は書く。検察庁法改悪への批判が広がる中でも、「菅さんが『やった方がいい』と言っている。仕方がない」と周囲にぼやいていたというのだ。

 その後、政権への打撃を懸念した今井尚哉首相補佐官の進言を受け、「首相も『強行採決までして通す法案ではない。無理する必要はない』と決断」。5月17日夕、菅官房長官に成立見送りを指示したという。

 以上が「読売」のストーリーである。安倍の指導力欠如を指摘しているようにも読めるが、記事の力点は「安倍案件」の否定にある。黒川の定年延長や検察庁法改悪をゴリ押ししていたのは菅―警察出身官僚のラインであり、安倍首相は執着していなかった――そのような印象を読者に抱かせようというわけだ。

姑息な責任回避

 こうした責任回避の言説を、今井ら安倍側近は在野の安倍応援団と結託し、広めようとしている。まずは、安倍本人がジャーナリストの櫻井よしこが主宰するネット番組(5/15)に出演。いけしゃあしゃあと「検察庁の人事については…(法務省の案を)そのまま大体承認をしているということなんですね」と語った。

 さらに、櫻井から「黒川の定年延長も検察庁法改悪も、法務省・検察庁が提案した話を承認しただけと取材で聞いたんです」と話を振られると、「まったくそのとおりですね」と即答した。まさに、筋書き通りの猿芝居である。

 自身のツイッターで安倍擁護の考察を披露したのは、作家の門田隆将(りゅうしょう)(映画『Fukushima50』の原作者)だ。今回の騒動の本質は検察内部の人事抗争と菅の「恣意的“霞が関人事いじり”」にあると断定。「さすがに安倍首相も『アホらしい。もうやってられるか』」とサジを投げ、法案成立を見送ったと言うのである。

 それこそ「アホらしい」妄想というほかない。法務省が上げた次期検事総長の人事案を安倍と菅が突き返し、「次は黒川」との意向を示したことは、あの読売新聞が詳しく報じている(2/21付)。今年2月に定年退職するはずだった黒川の勤務延長は、官邸の圧力を受けてひねり出された違法・脱法措置なのだ。

 安倍自身は黒川との「近しい関係」を否定するために「2人きりで会ったことはない」と力説しているが(これはウソ。首相動静の確認で即バレた)、問題のわい小化もはなはだしい。

 黒川は安倍政権にとって都合が悪い事件捜査をことごとく潰してきた。そんな「官邸の守護神」を検察トップに据えようと画策してきたことが、国家私物化の極みとして厳しい批判を受けているのである。

廃案、撤回を今すぐ

 コロナ禍による外出自粛の最中に新聞記者と賭けマージャンをしていたことが週刊誌の報道で発覚し、黒川は検事長を辞職した。刑法の賭博罪に問われる行為をくり返していた人物を重用し、法律をねじ曲げてまで定年を延長した安倍政権の責任は免れない。

 ところが、御用メディアは当初、人びとの怒りを「黒川叩き」に集中させようとした。「国民全体が我慢しているのに、不要不急の外出をして賭博行為にふけるなんてけしからん」というやつだ。露骨な「安倍隠し」だが、その思惑は見事に外れた。責任の所在を世論は見失わなかった(詳しくは別稿参照)。

 問題は何も解決していない。黒川の定年延長を認めた1月の閣議決定ついて、安倍は「撤回しない」と言明した(5/22衆院厚生労働委員会)。この閣議決定が効力を持ち続ける限り、政権の覚えがめでたい検察官の定年を延長することが可能であり続けるのだ。

 検察庁法改悪案は当然廃案だ。そして、違憲・違法の閣議決定も撤回させなければならない。  (M)

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