2020年06月12日 1628号

【新型コロナ「第2波」にも備えなし/「経営的医療崩壊」放置する2次補正予算/給付事業にもアベ友参入】

 「収束は日本モデルの力」「空前絶後の世界最大規模の経済対策」―新型コロナ緊急事態宣言解除を伝える安倍晋三首相の記者会見(5/25)は、いつも通りの空疎で大げさな言葉のオンパレード。いまだ感染が続く中で、無策、無責任を露呈する安倍政権は、自画自賛はすれど、次への備えなどまったくできていない。

「空前絶後」のウソ

 GDP(国内総生産額)の40%、230兆円―「世界最大規模」と安倍がいう経済対策。2次補正予算(5/27閣議決定)は1次補正と同様の上げ底だった。事業規模では1次と同じ117兆円。だが政府予算に計上される「真水」は約32兆円どまり。その3分の1にあたる10兆円は使途を政府に白紙委任する予備費。大企業向け融資枠を広げることもできる安倍マネーだ。

 新たな制度と言えば家賃支援給付金ぐらいで、1次補正にあげたメニューの増額が基本となっている。結局、経済対策と言える予算支出は1次26兆円と2次32兆円あわせて58兆円程度だ。これを安倍は230兆円だと吹いている。

 いつまで「やってる感」だけで、乗り切ろうというのか。「世界最大規模」と胸を張る前に、目の前の惨状を見据えるべきだ。

 「コロナ解雇」は厚生労働省の調査によれば、5月は28日までで1万2千人余、1月からの合計は1万5800人にのぼるという。コロナ関連倒産も4月で758件、年内には1万件を超えるとの予測もある(帝国データバンク)。総務省の労働力調査は、営業自粛に伴う4月の休業者は597万人になるとした(5/29)。

 この現状に経済対策は見合っているのか。

 例えば、中小企業に上限200万円、個人事業主には上限100万円を支給する「持続化給付金」。5月1日受付開始から25日までに120万件の申請があり、そのうち約46万件、6千億円が支給されたという。支給スピードが遅いうえに、わずか1か月の申請分だけで1次補正(150万社分、2兆3千億円)の底が見えてしまった。

 政府は多くの批判を受け、フリーランスにも拡大したが、その人数は1千万人以上となる。中小企業も約350万社(中小企業基本法ベース)ある。まだまだ申請は増える。2次補正で約1兆9千億円を上積みしたが、とても足りない。

 きわめて貧弱な支援策を見れば、安倍の言う「日本モデルの力」とは、「自粛の損失は自己責任」と押し通す「政府の無責任力」だとわかる。

官民一体出来レース

 この持続化給付金は別の役割があった。「アベ友」への儲け口だ。給付金支給は行政はしていない。中小企業庁が民間会社「一般社団法人サービスデザイン推進協議会」(SDEC)に業務委託をしていたのだ。

 この会社は閣僚経験のある竹中平蔵が経営する人材派遣会社「パソナ」、広告代理店「電通」、IT関連業務などを請け負う「トランスコスモス」の3社が16年に設立した。その際、経産省がこの会社の定款を作成したと指摘されている(川内博史衆院議員、5/22衆院決算行政監視委員会)。

 設立のきっかけは、経産省が打ち出したサービス品質の見える化「おもてなし規格認証」制度の創設にある。この制度は電通が提案し、経産省が政策化し、その業務をSDECが請け負った。だが、会社の実態はなく、電通に再委託という筋書きができていた。

 今回の支給業務も全く同じだ。給付金業務の委託料769億円を受け取ったSDECは電通に749億円で再委託している。2次補正で給付金総額が上積みされたのに合わせて委託料も増額されるとみてよい。

 安倍夫人昭恵が元電通社員というのはおくとしても、五輪招致や参院選などイメージ戦略など安倍と電通の癒着ぶりは公然化している。またもアベ友が顔を出すのかとあきれるばかりだ。

 事業存続の危機に直面している中小・個人事業者に一刻も早く届けるべき給付金。政府はその仕組みに知恵を絞るのではなく、贔屓(ひいき)の民間会社に丸投げしただけだった。給付金支給1件あたり数万円の事務費を支払いながら、ひと月経っても支給件数は申請の半数にも遠く及ばないのだ。

安倍退陣が最良策

 安倍会見の最大の問題はコロナ「第2波」にどんな備えをするのか全く見えてこないことだ。

 例えば、ピーク時に備え必要となる病床数。厚労省は全国で4万4千床としているが、各自治体の計画は合計3万1千床と7割程度。しかも、実際確保できているのは約1万8千床だ。

 まだまだ足らないのだが、これには、増やすに増やせない事情がある。「経営上の医療崩壊」(日本医師会横倉義武会長5/27毎日)を心配しているからだ。

 日本医師会など3団体による調査では、4月の外来患者数は対前年同月比で2割減。病床利用率は6・3ポイント減少し、75・9%になった。90%以上の利用がないと経営は成り立たないといわれている中で、コロナ患者の受け入れ態勢をとればとるほど、空きベッドは増え経営は苦しくなる。

 「閉鎖病院を出さないためには7・5兆円の支援が必要」と日本医師会は要望していたが、2次補正に計上されたのは「新型コロナ感染症緊急包括支援交付金」として、医療関係には1兆6千億円だけだった。



 一方で政府は、「医療実績が少ない」公立・公的病院の統廃合を強要してきた。全国440病院を対象に挙げて、「病床ダウンサイジング支援」と名付け84億円の予算までつけているのだ。

 全く支離滅裂ではないか。検査体制もそうだ。PCR検査が進まない理由にあげた「目詰まり」は解消するのか。責任を押し付けられた各地の保健所では、過労死ラインを超える超過勤務労働を強いられている。94年当時847か所あった保健所は、469か所にまで削減された。保健所の機能は検査の判断だけではない。感染ルートを特定する疫学調査を実施する機関だ。

 「行政改革」の名のもとに「ムダ」を削れと切り捨ててきた公的サービスは、決して手放してはならないものであることを、コロナ禍は教えている。

 コロナ危機克服の時代は、経済効率=利潤優先の資本主義ではない社会のルールを築く時代だ。その前に、安倍でたらめ政権を引きずり下ろすことが第2波への最も有効な備えとなる。



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