2020年06月12日 1628号

【コロナ解雇すでに1万6千人 闘うイタリア労働者に続き解雇禁止法の制定へ】

急増する解雇・雇止め

 厚生労働省が新型コロナウイルスの影響による経営悪化などを理由に解雇や雇い止めにあった労働者数を調べた。その数は、1月末から5月28日までで見込みも含め1万5823人に上り、うち1万2千人余りが5月に集中、急増していることが明らかになった。宿泊業や観光業、営業時間の短縮を求められている飲食業できわだつ。

 労働契約法16条は「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と定める。使用者は労働者を自由に解雇することはできない。

 特に、新型コロナが原因で経営状態に影響が出たことを理由にした解雇の場合、労働者に責任はなく、使用者の経営上の理由による解雇で「整理解雇」となる。解雇の正当性が通常の解雇よりもはるかに厳格に判断される。コロナで一時的に客がいなくなった、売り上げが減ったなどの理由で整理解雇することはできない。

 整理解雇は以下4つの要件で正当性が判断される。(1)人員削減の必要性があること(2)解雇を回避するための努力が尽くされていること(3)解雇される者の選定基準および選定が合理的であること(4)事前に使用者が解雇される者へ説明・協議を尽くしていること、だ。

 現在、解雇を進める使用者の多くが「解雇されると不利益がある」と脅し、労働者に「自発的」に退職届を出させる形をとっている。解雇すると言われても、決して自分から退職届を出してはならない。解雇4要件に照らして、解雇の不当性を暴くことは可能だからだ。

スト構え命と雇用守る

 コロナ解雇≠ヘ世界に広がっているが、ゼネストを構えて解雇禁止法制を実現したイタリア労組の闘いを、労働法学者・脇田滋さんが紹介している(https://hatarakikata.net/)。

 イタリアでは、2月後半から新型コロナの感染が爆発的に広がり、政府は2月23日「国家非常事態宣言」を発出。企業が操業中止や解雇手続きを開始し、3月初めには「解雇の雨」と呼ばれる深刻な状況が全国に広がった。

 CGIL(イタリア労働総同盟)、UIL(イタリア労働者同盟)、CISL(イタリア労働者組合総同盟)の3大労組は、こうした事態について、個別の解決では対応できないとして、解決を政府に強く求めた。

 3月2日、CGILランディーニ書記長は、政府が考えている非常財政投入について「全国のすべての労働者の雇用安定と所得支援のための措置に使われるべきだ」と要求。4日、3大労組の代表と首相らの政府交渉、14日政労使会議などが行われ、3大労組は共同ゼネストを構え要求した。

「イタリアを治癒」

 政府は3月16日、「Cura Italia(イタリアを治癒)」と呼ばれる、危機対応緊急措置を総合的に定める法律命令を公布。労働側の要求の多くが反映されることになった。

 この法律命令は、5月16日まで解雇を禁止する条項を設け、「危機の際、雇用を守るためのあらゆる手段が使われるべき」とする。(1)家計支援(2)非正規労働者、自営業者も含む労働者給付(3)保健サービス給付などが盛り込まれている。

 イタリアの感染は4月末段階でかなり減少してきたが、政府は3大労組との交渉を経て、予算を増額。5月には法律命令を改正して、2か月であった解雇の停止をさらに3か月延長し、合計5か月間となっている。

 こうしたイタリアの「解雇禁止」法制導入は、スペイン、アルゼンチンにも影響し、同様の措置がとられた。また、韓国でも、民主労総と韓国労総の2大労組がともに、「解雇禁止」と、非正規雇用や特殊雇用を含む「総雇用保障」の要求を行っていることにも反映されているという。

 *   *   *

 日本でも、コロナ危機の中での解雇禁止の臨時立法は緊急の課題だ。

「イタリアを治癒(Cura Italia)」法律命令の主な内容

 △2020年3月17日から60日間、解雇手続きは停止

(1)家計支援:

 △労働者の子どものケア休暇15日延長(賃金50%保障)

 △育児ボーナス(バウチャー)最大600ユーロ支給

 △実居住住宅、住宅担保融資返済猶予。強制退去禁止

(2)労働者支援(104億ユーロ)

 △労働者の雇用や所得を保護するために、全生産部門の従業員を対象に特例所得補償金庫からの給付

 △自営業者、観光などの季節労働者、自営業者、独立契約者、公演芸術家など観劇関連労働者、農業従事者などに月600ユーロの給付金を最長3か月間給付

 △全労働者に3月補償金として特別退職金、有給休暇

(3)保健医療サービスの強化(35億ユーロ)

 △新規人材の採用

 △緊急事態に投入の医療労働者への超過勤務手当拡大

 (脇田滋の連続エッセイ https://hatarakikata.net/ より)

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