2020年06月12日 1628号

【未来への責任(299) 朝鮮人犠牲者の名簿掲載へ(下)】

 朝鮮人犠牲者認定について、釜石市は一転して「慎重に判断すべき」などとなぜ一方的に保留にしたのか。情報公開請求で「犠牲者特定委員会」(2016年発足)の議事録や市の内部文書を入手したところ、市の問題性が浮き彫りになった。

 「犠牲者特定委員会」では、「支援する会」からの市への申し入れと情報提供の結果、朝鮮人犠牲者の認定も議題とされた。しかし、委員からは排外主義的な見解や釜石製鉄所との関係からの慎重論が多数出され、市もそれを追認していたことが分かった。

 議事録には次のようなやりとりがあった。

A委員「これ(製鉄所の内部資料)は、会社は出していいって?」

市「まだそこまでは確認は取れていません」

A委員「そこ、問題があるぞ。会社側は?」

委員長「新日鉄では人数が出るのもまずいかもしれませんね。賠償問題とかあるので」

A委員「せっかく調べたんだし、公表したいのがやまやまなんだけどさ。さっきも言うように管理している製鉄所側が何て言うかだよな? これあの戦争なんとか、朝鮮のあれでないけど犠牲者の方のお金に絡む話も出てくるのでは、と俺は思う。余計な心配だけど」

市「裁判沙汰になってますしね」

 結局、釜石製鉄所の了承が得られるまで、保留とされていたのだ。少なくとも、1976年の「釜石艦砲戦災誌」の編集委員は、行政文書や製鉄所の文書、過去帳などから、国籍に関わらずすべての犠牲者を認定しようとした。その精神にも反するものだ。

 「犠牲者特定委員会」での確認事項を踏まえて、釜石市はどのように日本製鉄(釜石製鉄所)に問い合わせし、会社はどう回答し、それを受けて、市はどのように対応しようとしたのか。

 情報公開請求の結果、2017年4月11日付「艦砲戦災犠牲者特定調査に係る釜石製鉄所との協議結果について(報告)」と2017年7月6日付「艦砲戦災犠牲者特定調査に係る釜石製鉄所の朝鮮人労務舎の取扱いについて(報告)」の2件の文書が「開示」された。しかし、「開示」とは名ばかりでほとんどが墨塗り。製鉄所の回答内容や市の「今後の対応」は一切分からない。このような状況では、公正な認定が行なわれるとは考えられない。犠牲者や遺族を愚弄するのも甚だしい。今後、市長に対し、審査請求を行ない、不開示文書の全面開示、犠牲者全員の認定を実現させたい。

(日本製鉄元徴用工裁判を支援する会 山本直好)

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