2020年06月19日 1629号

【コラム見・聞・感/マスクが映す社会分断と受注企業の闇】

 「アベノマスク」は劣化していく日本政治、経済、社会の象徴的存在となりつつある。筆者の地元では連合北海道がいち早く札幌駅、大通駅に「マスク回収箱」を設置。地元紙が報じたこともあって、先日中をのぞいたら、早くも一杯になりかけていた。驚くほどの不人気ぶりだが、連合北海道は、高齢者や障害福祉施設、保育所や幼稚園などに配布予定という。筆者も当初、アベノマスクを回収箱に入れるつもりだったが、福島市からの避難者が札幌で始めた福祉施設に譲ることにした。

 原発事故を福島県で経験した筆者にとって、マスクとは浅からぬ因縁がある。放射能被曝を安全と考える人、危険と考える人の双方にとって、マスクはいわば敵味方を見分ける「装置」であり福島分断の象徴だった。事故直後、マスクを着けた人同士で「避難する? するとしたらどこ?」というひそひそ話が交わされた。着用しない人は「御用学者にだまされている人たち」だった。その隣では「安全派」がやはりマスクを着用しない人同士で集まっては「あんな連中がいるから風評被害が続き、福島復興の妨げになる」と怒鳴り散らしていた。

 2015年10月、多くの批判を受けながら、いわき市で国道6号線の清掃活動に子どもを大量動員した「ハッピーロードネット」の西本由美子代表は、マスクを着用させないことについて「地元を理解しない人が東京で騒ぎ立てている」だけだと言い放った。先生が大丈夫と言っているという理由で、多くの児童生徒が学校でマスク着用をやめた。

 筆者は最後までマスク着用で通したが、県民の大部分が着用していない中で着用を続けるのは、筆者のような「確信犯」でも勇気が要る。多くの人に「自主」避難を決断させた要因にこの強い同調圧力があることを見逃してはならない。

 福島市の「ユースビオ」社がアベノマスク事業を受注していたこと、同社が元復興副大臣の公明党議員に献金していたことが明らかとなった。「復興」事業に群がった福島経済界のほとんどは「安全派」だ。県民世論を操作して巧みに同調圧力を作り出し、多くの県民を避難に追いやり、学校に圧力をかけてまで児童生徒からマスクを取り上げた福島経済界。それが、コロナ禍に乗じて今度はマスクでぼろ儲けとは、ふざけるにもほどがある。

       (水樹平和)
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