2020年06月19日 1629号
【どくしょ室/公文書危機 闇に葬られた記録/毎日新聞取材班著 毎日新聞出版 本体1500円+税/隠す、捨てる、そもそも作らない】
|
「霞が関には闇から闇に消える文書があるのです」。ある官僚OBが打ち明けた話である。2009年夏に自民党から民主党への政権交代があった際、省の上層部から「過去の政治関係の文書はすべて廃棄しろ」という指令が出されたという。戦争に負けて公文書を焼却処分したときと同じことが現代でも起きたのだ。
このエピソードは日本の権力機構に根ざした隠蔽体質を物語っている。官僚の間では作法と化した情報隠しの手口を本書にそってみてみよう。
▽電子メールで重要なやりとりをし、「メールは電話で話すのと同じだ」との理屈で公文書にしない。公文書管理法の適用外と見なされる私用メールやLINEを使うことも多い。
▽ウェブで公開される公文書ファイルの名称をわざとぼかして国民に中身を知られないようにする。たとえば、航空自衛隊作成の「運用一般(10年)(A)」という名称のファイルには、イラクにおける空自部隊の活動記録が書かれていた。
▽首相と官庁幹部の面談記録をほとんど作っていない。官邸は「省庁側の責任」として面談記録を一切作成していないし、省庁側も作っていない。首相の発言を記録することは官邸に禁じられているからだ。
公文書管理法は「意思決定にいたる過程を検証することができるように文書を作成しなければならない」(第4条)と定めている。その大原則を国家ぐるみで無視しているのである。
本書は毎日新聞の連載特集「公文書クライシス」をもとにしている。丹念な調査報道によって浮かび上がったのは、安倍政権の下で加速する民主主義崩壊の実態だった。 (O) |
|