2020年06月26日 1630号

【BLM(黒人の命は大切)―全世界で抗議行動/広がる「正義なくして平和なし」/不正義・不平等な社会を変えよう】

 米中西部ミネソタ州で起きた白人警官による黒人男性殺人事件に抗議する行動が全世界に広がっている。人種差別だけでなくあらゆる差別が抗議の対象となっている。「正義なくして平和なし」。公然と存在する制度的、政治的不正義が経済的不平等を拡大、固定化している。この根源を問う闘いのうねりが起きている。

黒人というだけで

 警察官によるジョージ・フロイドさん(46歳)暴行殺人(5/26)に対する抗議行動は日に日に拡大し、米メディアによれば1週間後の6月2日には全米50州、650以上の都市で取り組まれた。事件後2回目の週末となる6日には首都ワシントンで数万人の大規模なデモとなった。

 抗議行動が広がるのは、いまだになくならない黒人差別への怒りであることは言うまでもない。

 フロイドさんが殺害された時の痛ましい動画を多くの人が見た。偽札使用の容疑をかけられたフロイドさんは後ろ手に手錠をされ、うつ伏せ状態で首を膝で押さえつけられた。「息ができない」と絶命する。

 黒人というだけで犯罪者と決めつけられ、無抵抗にもかかわらず殺される事件はこれまで何度も繰り返されてきた。今年2月には、南部ジョージア州でジョギング中のアマード・アーベリーさん(25歳)が白人親子に撃ち殺された。5月初めに動画が公開され、元警察官だった父親(64歳)と息子(34歳)はやっと逮捕されている。

 黒人の子どもが母親から教えられる16のルールがあるという。▽手をポケットに入れない▽パーカーのフードをかぶらない▽買わないものに触らない▽タンクトップを着て運転しないなどと続く。こんなことに気をつけないと、命を奪われてしまう現実があるのだ。

ミレニアム・Z世代

 2013年の黒人少年射殺事件に始まる「Black Lives Matter(BLM―黒人の命は大切)」運動は事件のたびに抗議行動を行ってきた。今回はこれまでとは違う。ワシントンでは「デモの現場を見渡してくれ。今までと全く違うんだ。白人が多く参加し、中南米系もアジア系もいる」と参加者が言う(6/8毎日夕)。ニューヨークを取材したジャーナリストは「参加者のほとんどがジェネレーションZ(2000〜2010年代生まれ)とミレニアル(1980〜2000年代生まれ)」(6/10ビジネス・インサイダージャパン)と伝える。いくつものグループがインスタグラムで日時と場所を発信。万を数える人びとが集まった。

 欧州、アジアでも幅広い層が参加している。6月6日、ドイツではベルリン(1万5千人)ミュンヘン(2万5千人)など25都市で行動があった。黒人差別とともに、移民に対する差別反対が訴えられた。北部ハノーファーでは、昨年就任した市長自身、ドイツ生まれながら両親がトルコからの出稼ぎ労働者だったために「市の恥」とまで言われたという。

 オーストラリアでは、先住民アボリジニに対する差別反対が訴えられた。インドネシアではパプア人差別撤廃の運動も呼応した。パプア人差別問題に取り組む弁護士は「BLM運動は黒人のための人権運動の枠組みを超え、世界中に広がっている」と語っている。いまや植民地主義の「英雄」像は破壊の対象となっている。

制度的差別を問う

 これほど世界に広がるのはなぜか。米国では人種差別を禁じる公民権法制定から56年。法的に禁じられたが、いまも制度的差別が残っている。例えば、公立学校。財源を固定資産税に負っており、地区による税収格差が教育格差に直結している。学歴を得ても、就職、昇給に差別がついてまわる。

 新型コロナウイルスの犠牲者の割合は黒人が白人の数倍となっているのも、地域環境・労働環境の劣悪さ、経済格差を背景とする制度的差別の事例の一つだ。

 トランプ大統領は、黒人に限らず、女性や移民などへの差別を公然と口にし、不満のはけ口をつくり、分断をはかってきた。抗議する者を軍で鎮圧することまで公言した。米国社会には、作り出された不正義、不平等に対する怒りがいつになく充満している。

 今米国で抗議行動の中心となっているのは10代〜30代だ。しかも黒人ばかりでない。白人の若者も自らの身に降りかかる不正義・不平等を感じている。「息ができない」閉塞感が世界を覆っている。

 それは弱肉強食のルールを世界に押し付ける新自由主義政策が生み出したものだ。弱者を蹴落とす競争を正当化する仕組みが、不正義をまん延させている。「正義なくして平和なし」と全世界で叫ばれているのは、正義や平等、民主主義を公然と破壊する資本主義に対する反撃なのだ。
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