2020年06月26日 1630号

【コロナ禍 生活保護制度「水際作戦」撤回を/命と生活 最優先に/一層の要件緩和を】

 新型コロナウイルスによる休業者、失業者は急増している。今後、倒産・廃業が急増し、生活困窮者が大量に生まれるだろう。命と生活を守ることが待ったなしの課題として迫っている。

 誰もが利用できるセイフティーネットの一つが生活保護制度だ。すでに特定警戒都道府県で生活保護申請件数が2割増から2倍になっている。政府はこれまで生活保護申請に高い壁を作り、受給する権利を奪ってきた。ところが、新型コロナの影響による生活困窮者急増に対処せざるをえなくなっている。

緩和へ動いた厚労省

 生活保護法は、申請があれば、14日以内に保護の要否などを決定しなければならないと定めている。ところが、保護費を抑えたい厚生労働省とその意向をくんだ一部自治体は、申請窓口で執拗に生活状況などを問い、あくまで「相談」にとどめ、「申請」させなかった。いわゆる「水際作戦」だ。その結果、受給資格があるにもかかわらず受給できない世帯が約80%という実態が生まれている。

 新型コロナによる経済的困窮は、多くの人々に生活保護制度へ目を向けさせた。これまで通りの「水際作戦」で怒りが広がるのを恐れた厚労省は、自治体に対し3月と4月に相次いで生活保護業務に関わる事務連絡を行った。

 3月は「保護の申請権が侵害されないことはもとより、侵害していると疑われるような行為も厳に慎むべき」と「水際作戦」の緩和に言及した。4月は「申請の意思がある方に対しては、生活保護の要否判定に直接必要な情報のみ聴取」「当分の間、緊急対応等最低限度必要なもののみ実施」と審査のハードルを下げている。

 例えば、保護の要件である「稼働能力活用」。働く能力とその意思がなければ保護しないというものだ。これについては、「緊急事態措置期間中は不問」とする。通常、車を持っていれば売却させるところ、「通勤用自動車の保有を容認」する。自営収入減の場合、普段なら行っている「転職増収指導は行わない」など、これまでの運用を見直すものとなっている。

 緊急事態宣言中に期間限定するのは理由がない。新型コロナ危機は続いていく。これまでの不当な「指導」を改めさせていく絶好の機会だ。

制度の積極的活用を

 日銀に事務局を置く金融広報中央委員会のアンケート調査(2019年)によると、貯蓄など金融資産がないとする回答は、二人以上の世帯で23・6%、単身世帯で38%となっている。単身者の金融資産所有中央値を見ると、20代で5万円、全世代でも45万円しかない。単身者が収入を失えば、立ちどころに生活維持不能となる人が多いのだ。

 総務省は5月29日、新型コロナによる解雇や雇い止めが5月に急増し、休業者がリーマン・ショック直後の約4倍にあたる597万人に達するなどの雇用状況を明らかにした。貧困はすでに深刻化している。

 収入と資産の減少・喪失で生活が立ち行かなくなったとき、あるいは回復を見込めないとき、生活保護制度が活用されるべきだ。だが、厚労省は受給資格のハードルを多少なりとも下げたとはいえ、生存権保障の制度趣旨からすれば、まだまだ不十分だ。

 日本弁護士連合会は5月7日、生活保護制度の運用を緩和し、同制度の積極的活用を求め、会長声明を出した。厚労省の「緩和措置」に一定の評価を下しつつ、要件緩和をさらに拡充するため8項目の要求を出した。▽ウェブ申請を認める▽収入基準の審査のみで要否判定を行う▽現金・預貯金の保有を最低生活費の3か月分認める(現行は半月分)▽住宅ローン負担者にも保護の適用を認めるなどだ。

 申請は簡単だ。保護を申請する旨を書いた文書を提出すればいい。命と生活を守ることを最優先しなければならない。不当な「水際作戦」をやめさせ、憲法第25条「健康で文化的な最低限度の生活」を真に保障させる制度へと充実させていく必要がある。命を救うためにより使いやすい制度に改めさせるよう政府、自治体に対し交渉を強める時だ。

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