2020年06月26日 1630号

【未来への責任(300) 李容洙さんは何を語ったか】

 5月7日、韓国の元「慰安婦」被害者の李容洙(イヨンス)さんが記者会見をされた。その発言をとらえ「挺身隊問題対策協議会(以下、挺対協)は不正な会計処理をしていた」「(挺対協の呼び掛ける)水曜デモを終わらせるべき」など、元挺対協代表で国会議員の尹美香氏(ユンミヒャン)や正義記憶連帯に非難が浴びせられた。しかし、李容洙さんが記者会見で一体何を語ったのかについてはほとんど報道されていない。

 5月7日の記者会見で彼女が語ったことは録音され翻訳もされている。以下、印象に残った個所を引用する。

 <自分は慰安婦運動を一生懸命やってきた(証言、米議会証言―決議採択など)。女性人権活動家などとも言われている。しかし、「代表」として待遇されたことはない。挺対協、ナヌムの家に一緒にいる被害者と同様にも扱われない>

 <尹美香と30年を一緒に今までやってきたのに、(中略)解決も何もしないで自分は何なの、国会議員だか、長官だか、そんなの、そんな所へ行った尹美香は知りません。…一緒に解決しなければならない>

 <私の一番胸が痛いのは、水曜日の炎天下でも(学生たちが)親から少しずつもらったお金を、それを(カンパで)出すんです。水曜日に学生たちが来て(集会)、これでは勉強できません>

 <日本と韓国は隣の国です。若い人たちはお互い一緒に活発に過ごさなければなりません。歴史問題はそうやって解決しなければなりません>

 これらの言葉からまず分かることは、李容洙さんは自分のやってきた活動を正当に評価してほしいと願っておられるということだ。自分の被害体験を他人に仮託してしか語ることのできなかった李さんが、自らを公然と「慰安婦」と名乗って証言され、国を越えて活動されるに至った歩みは誰もが尊敬している。それを知っていただく努力が問われている。

 二つ目は、被害当事者と支援者・団体との意思疎通、連携と団結を維持することの難しさである。挺対協は「アジア女性基金」に反対し、2015年合意も受け入れてこなかった。では、どう解決していくか。尹美香さんが国会議員になったから道が開けるというものではない。今こそ被害者と支援団体との間の問題解決に向けての意思統一と団結が問われている。

 最後に、李さんは日韓の若者に未来を託していることが分かる。李さんは「私はそんな覚悟をしました」と語っているのだ。李さんの言葉はひとり挺対協に向けられたものではない。日本の私たちにこそ向けられている。

(強制連行・企業責任追及裁判全国ネットワーク 矢野秀喜)

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