2020年06月26日 1630号

【麻生財務相「民度が違う」発言/コロナ対策でも「日本スゴイ」/補償なき自粛要請の正当化】

 暴言太郎こと麻生太郎財務相がまたやらかした。日本の新型コロナウイルスによる死者が欧米諸国と比べ少ないのは「国民の民度のレベルが違う」からだと言い放ったのだ。実は、安倍晋三首相らも同趣旨の発言をしている。連中はなぜ、コロナ対策で「日本スゴイ」を叫びたがるのか。

安倍は「日本モデル」

 6月4日の参院財政金融委員会。麻生財務相は新型コロナウイルス感染症による各国の死者数の差をめぐり、こう答弁した。

 「おまえらだけ薬を持っているのかと(海外から)電話がかかってきた。『おたくとうちの国とは国民の民度のレベルが違うんだ』って言ってやると、みんな絶句して黙る」「海外からみればゆるいお願いレベルの話であっても、これだけ効果が上がったというのは、誇りに思わにゃいかん大事なところと思う」

 麻生は9日の衆院財務金融委員会でも死亡率の低さを挙げて「間違いなく誇るべき数字」と強調した。「韓国と一緒にせんでくださいよ。強制力なく、みんなで自主的にやったところが一番すごい。要請しただけで国民が賛同し頑張った。国民として極めてクオリティーは高い」

 欧米の市民は感染予防の意識が低いといわんばかりの侮蔑発言であり、外交問題に発展してもおかしくない。しかも「文化程度の低い連中がコロナを蔓延させる」という誤った認識を世に広め、差別を焚きつけることにもなる。

 実は、麻生と同趣旨の発言をする政治家や文化人は大勢いる。安倍晋三首相からしてそうだ。「日本ならではのやり方で、わずか1か月半で、今回の流行をほぼ収束させることができた。まさに日本モデルの力を示した」(5/25緊急事態宣言解除の記者会見)。

 この発言をフジテレビの安藤優子キャスターは次のように解説した。「本当にみなさんが粛々と勤勉に頑張られる―そのルールを守る律義さが日本モデルの真髄かなというふうに思いました」。ネットでも「日本人の民度は確かに高い」といった反応が多い。

東アジア基準では最悪

 「日本スゴイ」論に酔いしれ、事実を無視してはいけない。たしかに日本は欧米諸国に比べ、新型コロナ感染症による死者数が少ない。人口100万人あたりの死者数(6/4時点。札幌医科大調べ)をみると、日本は7・1人。英国(585・2人)や米国(323・8人)とは桁が違う。

 ただし、これは東アジアの国々に共通した現象だ。韓国5・3人、中国3・2人。台湾やタイなどは1人未満にとどまっている。麻生説に従えば、日本の民度は東アジア最低水準ということになってしまう。

 なぜ東アジアはコロナで重症化する者が少ないのか。「欧米と東アジアでは流行した型が違う」「東アジアに住む人びとは新型コロナに似たウイルスへの耐性を持っていた」といった仮説が出されているが、現段階では科学的に究明されていない。確実に言えるのは、「民度の差」といった言説をまき散らすなんて、責任ある政治家がすることではないということだ。

奴隷根性の自慢大会

 では、安倍や麻生は「無知、無恥、無責任」の3無体質ゆえに、コロナ対策でも「日本スゴイ論」を連呼しているのだろうか。それだけではない。やはり政治的な意図がある。

 連中は日本人の文化、生活習慣、国民性を持ち上げることによって、人びとの自尊心をくすぐり、政府のコロナ対策まで「正しかった」ことにしようとしている。具体的に言うと、公的補償の裏付けのない「自粛要請」の正当化だ。

 これは終わった話ではない。政府は新型コロナウイルス感染の「第2波」の恐れがあると判断した場合、緊急事態宣言の再発令に先立って外出自粛要請を出すよう都道府県知事に促す方針だという(6/3日本経済新聞)。何のために。休業補償等の法的責任を問われたくないからだ。

 政府が責任を負うことなく、人びとの私権を制限する――そんなことを可能にするのは自発的な服従以外にありえない。だから「政府の要請に進んで協力するのが日本人の美徳」といった価値観、逆の言い方をすると「みんなが我慢しているのに文句を言って“和”を乱す者は非国民」という戒めを今のうちに刷り込もうとしているのだ。

  *  *  *

 麻生の「民度が違う」発言は、「俺様の奴隷は鞭うたなくても言うことをよく聞くぜ」という領主の自慢にしか聞こえない。なのに安倍応援団は「自分が誉められていると思え」と強要する。コロナで叫ぶ日本スゴイ論の正体は奴隷根性の自慢大会なのだ。ふざけんじゃないよ。誰がその手にのるものか。(M)

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