2020年07月03日 1631号

【ドクター 緊急事態宣言は感染防御に役立たず】

 緊急事態宣言はいやだが、新型コロナウイルス感染を抑えたのならいいじゃないのと思う方も多いかも知れません。しかし、感染は宣言とは関係なく減っていたことが、政府・対策本部の諮問機関である「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」が5月1日、14日に発表したデータから明白になりました。

 日々「増えた!減った!」とマスコミが騒ぎ、市民を不安に陥れるのはPCR検査で陽性になった人数です。その推移を見ますと、3月25日ごろから急速に増加し、4月12日ごろにピークを迎え、以降どんどん減少しています。宣言発出(7都道府県)は4月7日、全国化は16日ですから、宣言のために感染が収まったかのような錯覚に陥ります。

 しかし、よく考えてみると、新型コロナは感染して検査で診断がつくまで、相当な日数がかかります。感染して症状が出るまで平均5日。その後受診し検査をして結果がでるまで、先のデータでは16日ほどかかっているのです。

 宣言による全国一律の「休業」「休校」などが感染を減らしたかどうかの検証には、PCR陽性が「出た」日ではなく、「感染した」日の人数を問題にしなければなりません。専門家会議のデータによる「感染した」人数は、3月10日ごろから急増し、同27日をピークに減少に転じ、その後どんどん減っています。その人数は宣言の出された4月7日にはすでにピーク時の半分、全国宣言の日には実に4分の1に減っていたのです(詳しくは医療問題研究会をご覧下さい)。

 この話、5月30日の朝日新聞1面でも「感染ピーク 緊急宣言の前」と報道されています。しかし、「『結果的に宣言のタイミングは遅かった』との声もある」などと、効果の有無にふれずごまかしています。記事でも示された「感染した」人数の経過表からみれば、緊急事態宣言は感染を、従って患者を減らさない不要なものでした。一方、同紙や大阪府知事と一部の「学者たち」が根拠も示さず宣伝するように、このデータを企業活動の制限解除のためだけに利用すべきではありません。

 多大な犠牲を強いた効果のない宣言の根拠である新型インフルエンザ等対策特別措置法の廃止と、科学的対策のため感染の増加と減少の原因について世界的規模での究明が必要です。

  (筆者は小児科医)
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