2020年07月03日 1631号

【読書室/女帝 小池百合子/石井妙子著 文藝春秋 本体1500円+税/何が「虚飾の女王」を育てたのか】

 女性初の東京都知事であり、再選を狙う小池百合子の知られざる半生を描いたノンフィクション。タイトルで損をしているが、たんなる暴露本ではない。作家の林真理子が「娘版『砂の器』の抒情がある」と評したのもうなづける。

 小池は政治家になるにあたって、政治家になってからも、自分の「物語」を語り、武器としてきた。「芦屋令嬢」「カイロ大学首席卒業」「アラブの大物と渡り合う国際通」等々。

 その偽りを著者は綿密な取材で暴いている。底が丸見えの底なし沼というべき嘘の数々に読者は驚き、あきれ、慄然とするだろう。「これほどあからさまな虚言癖を備えた人間を政治家にしておくのは、民主主義の危機ですらあるのではなかろうか」(コラムニストの小田嶋隆)という指摘はまったく正しい。

 だが、問題は何が小池を「怪物」に育てたのか、ということだ。小池と同時期にエジプトにいた元留学生は言う。「加担してきたのは日本のマスコミでしょ。新聞記者にテレビ局。薄っぺらな知識を語って恥じない人たち。彼女はそんな彼らを手玉にとって、今に至っているわけだから」

 政治、経済、マスコミの大物たち(みな男性)は、小池のような女性に一様に甘かった。「彼女は男社会と対峙するのではなく寄り添い、男社会の中で『名誉男性』として扱われることを好んでいたのだった。だからこそ、彼女は次々と大物たちに目をかけられ、引き上げられていったのだろう」と著者は言う。

 「改革」パフォーマンスの政治はもう終わりにしなければならない。本書を本当の「東京アラート」と受け止めたい。   (O)
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