2020年07月10日 1632号

【病院つぶして「コロナ対策」って何だ/安倍政権の新型コロナ政策の誤り/災禍にも対処できる医療体制を/医療問題研究会講演(概要)】

 新型コロナウイルス感染症対策で「一斉休校」「緊急事態宣言」と「強い指導力」を演出した安倍政権。だが政権浮揚の狙いは失敗に終わり、逆に場当たり的対策と脆弱な医療体制が浮かび上がった。市民の立場から新型コロナ感染症問題について発信する医療問題研究会の医師がMDS(民主主義的社会主義運動)集会で行った講演(概要)を紹介する(まとめは編集部)。

コロナ特措法の問題

 まず、政府の新型コロナウイルス感染症対策の根拠となった改定新型インフルエンザ等対策特別措置法(特措法)、特に緊急事態宣言がどんな役割を果たしたのか見ておきましょう。

 特措法では緊急事態宣言下でとる「まん延防止策」は2点。都道府県知事の「協力要請」(第45条)と政府の「予防接種」(第46条)です。

 新型コロナウイルスの新規感染者は、緊急事態宣言(4/7)の10日も前から減少をはじめ、全国に広げた時(4/16)にはすでに4分の1にまで減っていたことが、専門家会議の資料で明らかになりました。その要因は確定していませんが、宣言により新規感染者が減少に転じたわけではないことは明らかでしょう。






 「予防接種」は今回、ワクチン自体がなく議論にならなかったのですが、問題があります。今のままだと、あやしいワクチン接種を強制されるかもしれないので、要注意です。

 宣言下では「まん延防止」の他に「医療供給体制の確保」(第47条)をすることになっています。宣言がなくてもできることばかりですが、実際は何もできていませんでした。医療現場への感染防御用具(防護服・マスクなど)の不足は解決できませんでした。アベノマスク騒動がその実態をよく示しています。大阪市では「雨合羽」カンパを要請するパフォーマンス。結局、使い物になりませんでした。

 その一方で、労働者の大量解雇や中小事業者の倒産など多大な悪影響が生じています。補償なき「自粛」など多くの問題を抱える特措法を根本的に見直し、世界的な感染対策の検討を踏まえた感染防御政策が必要です。

 特に、グローバル資本主義の時代です。環境破壊による新たな感染症の発生やヒト・モノの世界的移動による多様な感染経路を考えなければなりません。放射線被害や環境破壊と同様、グローバルな視点で科学的、民主的な対策を考える必要があります。

脆弱な医療体制

 さて、その上で日本の医療体制はどうでしょう。新型コロナ感染症は呼吸管理などが必要な重症患者が多く、ICU(集中治療室)が不可欠です。そのICU、日本は欧米よりはるかに脆弱でした。病床数はドイツの6分の1、極端に合理化されたイタリアと比べてもの2分の1です。患者1人に対する看護師は欧米の2分の1に過ぎません。

 医師数はG7最低、医学生の数はOECD(経済協力開発機構)35か国中下から2番目という有り様で、看護師など現場で働いている医療従事者の数は大変少ないのです。

 ところが厚労省は昨年、再編・統合を促進すべきとする公立・公的(日赤など)病院名を突然公表しました。すでに17年度までの10年間で公立・公的病院の1割が減らされています。その上、さらに約3分の1にあたる440病院を減らそうというのです。

 新自由主義政策は、儲からない部門を切り捨てていきます。保健所の統廃合、地方衛生研究所の独立行政法人化などに端的に表れています。PCR検査をしている地方衛生研究所職員数は05年から19年に23%減。公立病院同様、「独立行政法人」化により、「カネ・カネ・カネ」の世界です。とても緊急事態に対応できる状態ではありません。




効果なきアビガン

 治療薬の現状ですが、科学的効果判定で効いたという薬はまだありません。入院や死亡を防いだとのデータは全くありません。

 話題のアビガンは、中国で行われた別の抗インフルエンザ薬と比べる方法(ランダム化比較試験)では、目標とした「7日目での治癒率」で、効果なしでした。

 日本でもランダム化比較試験中ですが、医師にはどの患者がアビガンを飲んだか分かるやり方なので、「効果」のでっち上げがされないか危惧しています。

 アビガンの製造販売会社の親会社富士フイルム会長は、安倍首相の「お友達」。「安倍案件」の疑いが強く、まともな試験なしに強引に認可されるのではないかと日本医師会有識者会議が反対の提言を出しています。

検査なしに対策なし

 さて、日本のコロナ対策は救える命を救うことができたのでしょうか。人口当たりの死亡率を欧米諸国と比べると、日本は桁違いに少ないですが、アジアの中ではフィリピンと並んで最悪水準と言えます。

 感染者中の死亡者の率(致命率)と関連するのが、年齢とその人の持っている持病です。症状がある人は検査で早く診断を確定して隔離・治療すること、無症状でも感染の可能性があれば早期の検査で確かめることが感染拡大を防ぐために不可欠です。病院や介護施設でのクラスターが発生しています。ですから、新型コロナに弱い世代や患者、その周辺の方々の検査を徹底することが、死亡率を下げるには不可欠なのです。

 政府は検査体制の充実より、接触者確認アプリ導入に力を入れています。韓国に代表されるような「監視」が感染抑止に役立つとする論文もいくつかあるようです。しかし、科学雑誌『Nature』はどれだけの効果があるのかのデータが示されていないと論説しています。患者発生や感染症制御のためには、多くの職員を配置し、これまで築かれてきた調査方法をしっかり構築することが必要であり、それをアプリにさせることはできないと主張しています。必要な検査をしないで、予防も治療もあり得ません。

 新型コロナを機会に、医療機関再編合理化を阻止し、多くの災厄にも対処できる医療体制を要求しましょう。製薬企業や医療機器企業の国有化も必要です。儲からないことを切り捨て健康と生活を破壊する政策を根本的に変えることが求められているのです。
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