2020年07月10日 1632号

【六ケ所再処理工場 新基準「合格」 プルトニウム固執の政府 税金の投入は19兆円】

 5月13日、日本原燃の使用済み核燃料の再処理工場(青森県六ケ所村)が新規制基準を満たし、事実上「合格」したとする報道が流れた。

六ケ所再処理工場とは

 日本政府の原子力政策は、原発から出る使用済み核燃料を再処理し、抽出したプルトニウムを燃料として再利用する「核燃料サイクル」構想を基本としている。

 六ケ所再処理工場は、使用済み核燃料からプルトニウムを取り出すための施設で、1年間で約800トンの使用済み燃料を化学的に処理し、約8トンのプルトニウムを分離する能力を持つ。この再処理を経て、ウラン・プルトニウム混合酸化物の粉末状のものができる。これがMOX燃料といわれるものだ。




核燃サイクルは破たん

 もともと「核燃料サイクル」構想は、MOX燃料を高速増殖炉で使用することで、より多くのプルトニウムを生み出すことを前提としていた。ところが、2016年にトラブル続きだった高速増殖炉「もんじゅ」の廃炉が決まったため、MOX燃料をつくっても普通の原発で使う(これをプルサーマルという)しかなくなった。

 すでに「核燃料サイクル」構想は破たんしており、再処理工場の稼働は意味がない。にもかかわらず政府が「核燃料サイクル」に固執するのは、プルトニウムの保有が潜在的核抑止力になると思っているからだ。

 プルトニウムは原爆の材料となるため、核不拡散条約(NPT)によって保有が制限されている。日本は「核燃料サイクル」で使うことを公約して、プルトニウムの保有を許されてきた。だが日本は、海外に再処理を委託したものを含め、原爆6千個分にあたる約46トンの分離プルトニウムを所有しており、国際的に疑惑の目を向けられている。

 そこで、18年7月に内閣府の原子力委員会が「プルトニウム保有量を減少させる」との基本方針を決定した。しかし、新規制基準に「適合」とされ再稼働した原発のうちプルサーマル運転できるのは、伊方3号機(愛媛県)、高浜3、4号機(福井県)、玄海3号機(佐賀県)の4基のみ。この4基で消費できるプルトニウムは年間約2トンだ。すでにあるプルトニウム46トンを消費するだけで20年以上かかってしまう。再処理を進めれば進めるほど、利用されないプルトニウムが溜まっていく。再処理工場などまったく必要ない。

 しかも、六ケ所再処理工場にかかる費用(建設費、運転保守費、使用済み燃料の再処理費、特定放射能廃棄物処分費、施設解体費など)は総額19兆円にのぼるとされる。破たんした「核燃料サイクル」維持のために莫大な税金が投入されようとしているのだ。

懸念される健康被害

 再処理の過程で、大量の放射性物質が環境中へ放出される。その量は、「原発1年分の放射能を1日で出す」といわれるほどだ。

 また、再処理工場の排気塔からはクリプトンをはじめ気体状の放射性物質が大気中に放出され、沖合の海洋放出口からはトリチウム、ストロンチウムなどあらゆる種類の放射性物質が廃液に混ざって放出される。

 再処理工場の稼働に伴って、健康被害が広がることは目に見えている。現に、フランスのラ・アーグ再処理工場の周辺では、小児白血病の発症率がフランス平均の約3倍にのぼる。また、イギリスのセラフィールド再処理工場で働き被ばくした男性労働者の子どもたちは、他の地域の子どもたちに比べて、白血病やリンパ腫など血液の癌の発生率が2倍近く高い。

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 5月に「合格」と報じられたあと日本原燃は、次の安全審査に必要な追加書類の提出が10月頃になると明らかにした。規制委は追加書類の提出まで審査を進められなくなった。

 再処理工場の稼働反対の声を全国に広げ、稼働を阻止しよう。  
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