2020年07月10日 1632号

【イージス・アショア配備撤回はなぜ/欠陥兵器「爆買い」の失態隠し/「敵基地攻撃」論で挽回図る】

 陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の配備計画が撤回された。なぜ急転直下の方針転換に至ったのか。安倍政権は新たなミサイル防衛策と称して「敵基地攻撃能力」の保有を唱え始めたが、そのことで何を隠そうとしているのか。

ブースターが理由か

 6月24日、政府は国家安全保障会議の4大臣会合を開き、イージス・アショアを秋田、山口両県に配備する計画を断念することを正式に決定した。河野太郎防衛相は「代替地を見つけることは困難」と話しており、国内配備自体が撤回されることになった。

 イージス・アショアの導入は、米国のトランプ大統領が安倍晋三首相に購入を求めたことを受け、官邸主導で決まった経緯がある。2基導入の事業費は維持・運営費を含め約7千億円に及び、安倍政権による「米国製兵器爆買い」の典型例と言われていた。

 河野防衛相は計画中止の理由に、迎撃ミサイルを打ち上げた際に切り離す推進装置(ブースター)の問題をあげる。現状のシステムでは安全な場所に確実に落とせず、周辺住民に被害が及ぶ可能性が今年に入って判明。改修には2千億円の費用と10年の期間がかかることから「コストに合わない」と判断したという。

 しかし、ブースターの件が白紙撤回の決め手になったとは思えない。危険性を指摘する声を政府はずっと軽視してきたからだ。防衛省の戦略企画課長が「絶対に陸上に落ちないとは言えないが、弾道ミサイルが我が国領域に直撃することと比較すると、被害は比べものにならない」と発言し、配備候補地(山口県阿武町)の町長が「町民に犠牲になれと言うのか」と激怒する一幕もあった。

 取って付けたような説明に誰もが疑問を感じていたところ、重大な疑惑が浮上した。イージス・アショアの本来目的である弾道ミサイルの迎撃機能そのものがなかったというのである。

実は迎撃能力なし

 週刊文春の報道(7月5日号)によると、イージス・アショアへの採用が決まっていたロッキード・マーチン社製のレーダー(SSR)には「射撃管制能力が無い」とする報告書を、防衛省の官僚が昨年3月にまとめていたという。

 射撃管制能力というのは、迎撃ミサイルを目標に誘導する機能のこと。レーダーは目の役割を担うが、イージス・システムのレーダーには神経にあたる射撃管制能力も備わっている。米海軍のイージス艦が搭載予定のSPY−6(レイセオン社製)がそうだ。

 ところが、ロッキード社のSSRには射撃管制能力が無いという。これが本当であれば、追加で別システムを購入しなければイージス・アショアは機能しない。さらに莫大なコストがかかるということだ。

 そもそもSSRの性能は検証されておらず、潜在的に開発のリスクがあるとして採用を疑問視する声が日米の軍事関係者から上がっていた。それなのに、防衛省はSSRの取得費用として約350億円の契約を輸入代理店の三菱商事と締結した。昨年10月末のことである。前記報告書の指摘は黙殺された。

 報告書の内容を週刊文春にリークしたのは「X氏」とされる。安倍政権の「米国製兵器爆買い」、すなわち高値で購入した欠陥兵器を押しつけられることに不満を抱く「防衛関係者」のことであろう。安倍政権の弱体化とともに、内部の批判が表面化したのである。

 いまイージス・スキャンダルが爆発しては、新型コロナウイルスへの対応で批判にさらされる安倍政権にとっては、命取りになりかねない。そこで先手を打って白紙撤回を「決断」したふりをしてみせたというわけだ。「トランプは11月の大統領選で負ける」という読みもあるに違いない。

また「北朝鮮」利用か

 イージス・アショア取得経費のうち、すでに1787億円が契約済み(支払い済みは196億円)。未払い分は日米間で協議されるというから、巨額の税金を無駄遣いすることに変わりはない。このことを追及されたくない安倍政権は目くらましを仕掛けてきた。

 それが攻撃を受ける前に相手の拠点を叩く「敵基地攻撃能力」の保有論だ。安倍首相は6月18日の記者会見で検討する考えを表明。自民党は検討チームを立ち上げ、保有を求める提言を7月中にも政府に提出する方針だ。

 イージスでの失態を極右ウケする政策でリカバリーしようとしていることは明らかで、一部には「敵基地攻撃論で10月解散に打って出るのでは」との観測も出ている。「困ったときの北朝鮮」ということか。もういい加減にしてくれ。このデタラメ首相の責任の取り方は、ただちに辞めることしかない。    (M)

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