2020年07月10日 1632号

【読書室/オリンピック・マネー  誰も知らない東京五輪の裏側/後藤逸郎著 文春新書 本体800円+税/コロナでも暴かれた金まみれ】

 3月、新型コロナウイルス感染が大きく広がる気配を見せても、安倍首相や小池都知事らはPCR検査拡大を拒み、検疫強化も怠るなど対応は緩慢だった。背後に7月東京オリンピック開催への固執があったことは誰もが指摘している。

 そもそもオリンピックは平和の祭典なのだろうか。こう本書は問いかける。

 古代も近代も、そして現代もオリンピックは政治経済に翻弄されてきた。現在のIOC(国際オリンピック委員会)は、商業化路線をひた走る巨大ビジネスNGO兼NPOであり、アスリート・ファーストとは名ばかりのマネー・ファーストの組織なのだ。

 IOCが金まみれであることはなかなか理解されずにいる。とりわけ日本ではオリンピック神話が根強くあるため、オリンピックを絡めればものごとがうまくいくようだ。だが、新型コロナが東京五輪延期という事態を生み出したことにより、オリンピックとお金の関係が露呈した。

 お金だけではない。さまざまな問題点が隠されている。たとえば、新国立競技場ではオリンピック後に陸上の世界大会が開くことができない。世界陸連が公式大会の条件にサブトラックの併設を掲げているからだ。新国立競技場のサブトラックはオリンピック終了後に撤去予定であり、競技場をレガシーにするとの宣伝はウソなのだ。

 本書は、前半でIOCとお金の実態を中心に展開し、後半で東京オリンピック誘致をめぐる裏側を暴いている。誘致に関わる問題では、新国立競技場建設のために都営住宅の住民の強制移転、オリンピックを利用する神宮外苑再整備の密約などが明らかにされる。 (T)
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