2020年07月24日 1634号

【倒産・失業増でも株価高騰の怪/公的資金で買い支え―金持ちの資産増加/内部留保はコロナ補償に回せ】

 株価が異常だ。新型コロナでリーマンショック以上のダメージを受けたという経済。株価は一旦急落したものの、すぐに急騰した。日本の株価は3月中旬に1万6千円台に下がったが、6月には2万3千円台に戻り、現時点でも2万2千円を超えている。業績好調なら株価は上がる。ところが、倒産や休業、失業者が急増している中でも高いままだ。

 日本に限らず現在の株式市場は経済の実態とはかけ離れた動きを見せている。IMF(国際通貨基金)でさえ、「実体経済と乖離(かいり)しており、割高感がある」(国際金融安定性報告書6月)と指摘するほどだ。


日銀と年金基金

 なぜ株価は上がっているのか。買い手がいるからだ。その一つが中央銀行だ。日米欧の中央銀行はコロナ対策のため国債や社債を購入し、資金を供給した。IMFによれば、G7の中央銀行の資産規模が総額6兆ドル(約640兆円)以上拡大した(共同通信6/25)。市民生活や事業の維持に回るのであれば納得もいく。だが、その多くが株式市場に流れた。

 日銀は3月、月間最高額となる1兆5484億円のETF(上場投資信託)を買い入れた(ダイヤモンドオンライン4/22)。年間12兆円に倍増する計画だという。

 日本では中央銀行と並んでもう一人、大口買い手がいる。GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)だ。GPIFはいまのところ大企業株の多い東京証券取引所市場第1部(東証1部)で最大の株主なのだが、日銀が「年内にも日本市場最大の株主になる」(朝日5/27)と見られている。いずれにしてもこの両者が株価に影響を与えていることは間違いない。

 「経済」を売りにする安倍政権は公的資金で株価吊り上げの「禁じ手」を使っているが、株価が急落すれば大損害が出ることを指摘しなければならない。

労働者・市民に返せ

 この他にも株価を上げている要因がある。上場企業が自社株買いを拡大させているのだ。その資金源に内部留保が使われている。内部留保は設備投資のためのものとされていたが、自社株のほか、他の金融投資の原資となってしまっている。

 2019年3月末、すべての法人280万社合計で463兆円にもなる内部留保。そのうち資本金10億円以上の大企業(5千社)で234兆円を占める。わずか0・2%に過ぎない企業が過半を保有している勘定だ。2000年代になって内部留保は急増する。リーマンショックを経験した企業が自己資金確保に走ったことは否定できない。しかし、その蓄えは業績を伸ばしたからではなく、人件費削減と法人税減税で「利益」を得たからだ。

 463兆円の内部留保について、「設備投資以外の緊急事態に備えた分は263兆円、その中の132兆円は従業員の賃金と利息を不当に値切ったもの」と試算する水野和夫法政大学教授は、コロナ危機で真っ先に使われるべきものとの立場から、「経団連会長に首相の職を賭して」取り崩しを迫れと安倍に要求している(毎日5/18)。残る131兆円で不動産賃貸料(18年度で27兆円)、資本金1億円未満の小売業および宿泊・飲食業の売上高(123兆円)など、おおむね1年の休業に対応できるという。

 内部留保を吐き出させれば、1年間の休業補償が可能なのだ。労働者の賃金を値切り、法人税を消費税に転嫁した「成果」である内部留保は労働者・市民に返還すべきものであり、自社株や金融資産を買いあさるためであってはならない。

  *  *  *

 グローバル資本と富裕層は株高の恩恵を受けている。その一方で、解雇・倒産が拡大しても政府は市民や中小事業者に補償をすることはない。コロナ禍は、新自由主義が貧富の格差を拡大していく仕組みであることを白日の下にさらした。

 富裕税、金融取引税の創設や内部留保への課税など、コロナ危機のいまだからこそ大企業・富裕層から富を吐き出させることが必要だ。「経済低迷下の株価高騰」という異常は、本来の富の使い方に改めよという警告なのだ。
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