2020年07月24日 1634号

【未来への責任 (302) 日本製鉄への差押命令】

 6月1日、韓国・大邱(テグ)地裁浦項(ポハン)支部は、旧日本製鉄の強制動員被害者が提起した株式差押命令事件で差押命令決定などの公示送達を決定した。これにより民事執行法等の規定で、2か月が経過した8月4日に送達の効力が発生する。以降、日本製鉄の資産(株式)が「現金化」され、被害者原告に支払われる可能性が出てきた。

 これに対して茂木敏充外相は、韓国の康京和(カンギョンファ)外相との電話会談で「現金化は深刻な状況を招く。避けなければならない」と通告。日本政府は、日本企業に実害が出た場合、断固たる対抗措置を取るとした。

 改めて言うが、日本政府の対応は間違っている。

 第一に、そもそもこの訴訟は民事訴訟である。旧日鉄に強制動員され働かされた被害者と新日鉄住金という私人間の争いである。日韓両政府は原告でも被告でもなく部外者(訴外)でしかない。それに介入することは許されない。

 第二に、日本製鉄は大法院判決を不当と非難はするが、それに従わないとは一言も言っていない。ただ、「適切に対応していく」と言っているだけだ。日本製鉄はグローバル企業だ。その行動規範では、「1.法令・規則を遵守し、高い倫理観をもって行動します」「8.各国・地域の法律を遵守し、各種の国際規範、文化、慣習等を尊重して事業を行います」と規定している。口が裂けても「確定判決であっても従わない」とは言えない。「適切な対応」は日本製鉄自身に見つけ出してもらうほかない。

 第三に、日本政府の主張は、この訴訟の経過を全く無視したものでしかない。2018年10・30大法院判決は、13年7月10日のソウル高等法院判決を新日鉄住金が不服として上告したものを「全て棄却する」と判断したものである。新日鉄住金は、2005年にこの訴訟が起こされて以降、管轄権などを提起し抵抗したが退けられ、応訴した。訴訟の中では自らの主張を尽くした。一審、二審では勝訴した。しかし、最終審で敗訴したのである。しかも、この間、被害者原告側は一貫して新日鉄住金に話し合いによる解決を呼びかけた。それを拒んだのは新日鉄住金だ。原告側には何の瑕疵(かし)もない。それを最後になって「判決に従うな」?! そんな話が通ると思うのか。

 大法院判決から1年8か月以上が経過した。唯一の生存原告、李春植(イチュンシク)(96歳)さんも判決履行を待ちわびている。これ以上、李さんの権利回復を遅らせることはできない。日本製鉄は自ら判決を履行すべきである。

 「現金化」は日韓関係をさらに悪化させる。それを回避する責任はいったい誰にあるのか。とくと考えてみる必要があるだろう。

(強制連行・企業責任追及裁判全国ネットワーク 矢野秀喜)

 
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