2020年07月24日 1634号

【本当のフクシマ 原発震災現場から 番外編/電通が担った「放射能安全」PR/「風評被害」対策に240億円】

 新型コロナウイルス感染拡大に便乗した電通の悪事が発覚した。収入が減った中小企業や個人事業主らの救済制度である持続化給付金事業を食いものにしていたのである。電通が得意とする公共政策ビジネスだが、連中は3・11原発事故後の福島でも国の「風評被害」対策で大儲けしていた。

「心の除染」事業

 電通がかかわっていたものの一つに「低線量地域詳細モニタリング事業」がある。仁志田昇司・伊達市長(当時)の「(もう線量は十分下がったので)これからは安心してもらうための『心の除染』だ」という発言を受けて2014年に事業採択された。「問題なのは汚染ではなく不安に思う住民の心。だからそれを取り除く」という市長の思惑が透けて見える。

 電通はこの事業を約2億円で受注。住民に電話や戸別訪問で事情を聴く。除染を望む世帯があり、実際に汚染が確認されても市の事情だけを一方的に説明。住民に「これ以上の対応は不要」と言わせ、除染もせず強引に「対応完了」に持ち込んでいた。不安を持つ住民がいても関わらないほうがいい、忘れたほうがいいと思わせ、力ずくで住民の不安を抑え込む。税金を使っての卑劣で汚い、電通らしいやり口だ。

 伊達市は、ICRP(国際放射線防護委員会)第4委員長ジャック・ロシャールを招請しての「官製エートス」運動や、外部被曝線量を不当に低く見せるためのガラスバッジ線量測定など、早くから放射能安全神話作りの実験場とされた。しかし、御用学者・早野龍五らの論文での「線量改ざん」が暴露されるなどほころびも露呈した。仁志田市長自身、除染を否定し安全神話作りを主導したことが市民の批判を浴び、2018年市長選で敗れた。

やはりパソナとタッグ

 アイドル「TOKIO」を起用した「ふくしまプライド。」というポスターが福島県庁食堂に大きく貼られていた。これも電通が受注した事業だ。2012〜18年度の総額で67億円が福島県から支出された。

 「食べて応援」キャンペーンは電通が農水省から1億2500万円で受注。「県産農林水産物PR事業」でも、2018年度までに総額12億6200万円が県から電通に流れている。

 一連の事業受注の際、電通は「風評被害」払拭のための研究会まで立ち上げ、その事務局を担う。電通が示した「基本的考え方」に基づき、福島県に負のイメージを与える情報を「ネガティブ」、復興や事故収束を発信する情報を「ポジティブ」に区分。「ポジティブ」情報だけを洪水のように垂れ流し、福島「復興」を盛んにアピールする。

 環境省「除染等に関する広報業務」も電通が受託。この事業には、福島市に設置された「除染情報プラザ」における広報業務も含まれる。ここに除染「専門家」を派遣しているのはまたもやパソナ。伊達市の「心の除染」事業でも、戸別訪問員はパソナの派遣だった。電通とパソナのコンビによる惨事便乗型資本主義。持続化給付金事業とここでもまったく同じ構図だ。

 除染情報プラザは現在、「環境再生プラザ」に改称されている。汚染のイメージがつきまとう除染も彼らにとっては追放すべき「ネガティブワード」というわけだ。だが名称が変わっても目標はあくまで住民の不安抑圧と「新・放射能安全神話」形成だ。最終目的はもちろん「原子力ムラ復活」にある。ホームページに連携団体として日本原子力学会や日本原子力研究開発機構など「ムラ」ど真ん中の団体名が並んでいることがその証拠である。

 電通が受注したこれら「安全安心神話づくり」関連事業の総額は240億円にも上る。

地方ミニコミ誌の意地

 電通の実態は長い間、謎に包まれてきた。長野県を拠点とする地域ミニコミ誌『たぁくらたぁ』の粘り強い情報公開請求に筆者は地方ミニコミ誌の意地を見る。はぎ取られた謎のヴェールの下から姿を現した電通の素顔は単なる民間広告会社などでは決してない。政府・自民党御用達の「民間謀略洗脳会社」―これこそ電通の本当の姿だ。

 福島県白河市にもかつて『FACE』というミニコミ誌があり、原発事故コーナーが設けられていた。電通から多額の広告料を受け取って大手メディアが沈黙する中、自民党の謀略部隊・電通に地方ミニコミ誌が一泡吹かせたのだ。これが痛快でなくて何だろう。

 今、アベノマスクや持続化給付金問題が次々と暴かれ、経産省とともに電通はかつてない集中砲火を浴びている。このまま電通が「全焼」しても市民は誰も困らない。風前の灯となった東京五輪もろとも、いっそこのまま焼け落ちてしまえばいい。 (水樹平和)

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