2020年07月31日 1635号

【辺野古新基地 崩壊の危険/工事中でも震度2で/ただちに中止せよ】

 沖縄・辺野古新基地は震度1程度の地震でも護岸が崩壊する恐れがある―衝撃的な事実が7月2日、明らかになった。建設地の軟弱地盤や活断層の独自調査を進める専門家チーム「沖縄辺野古調査団」(立石雅昭新潟大学名誉教授ほか)が行った解析では、工事中でも震度2以上の地震で崩壊を起こす。現場作業員の命にかかわる問題だ。

 安全性も確認しないまま工事を強行するとは信じがたい。崩壊必至とはどういうことなのか見ておこう。

軟弱地盤に高盛土

 新基地建設工事では、最低海水面から5・0bの高さにまで土砂を盛り上げる。その土砂が崩れないようにブックエンドの役割を果たす護岸は、鉄筋コンクリート製の函型擁壁(ケーソン)で、幅15・8b、高さ14b。5階建てマンションに匹敵する。

 調査団が問題にしたのはこのケーソンが抑える盛土(もりど)とケーソンの下の地盤そのものの安定性だ。

 崩壊するのは力のつり合いが取れなくなるからだ。盛土をしたところと、しないところでは、地盤が支える重さが違う。調査団は、この力の偏在で擁壁を支える地盤自体に変状が生じないか計算した。

 実際に盛土が崩壊するときに生じるすべり面が曲面に近いところから、計算上、円弧のようなすべり線が発生すると仮定するモデルを使う。盛土の重さで沈もうとする力と地盤の持つずれに対抗する強さ(せん断強度)を比較する。最も基本的な安定計算だ。土の重さやせん断強度は現地の土を直接採取した土質調査(防衛省データ)を利用した。

 地震の影響をどう見込むか。軟弱地盤の強度は落ちるはずだが、すべり計算では強度低下は見込まず、滑り出す方向にむけて水平に力が加わるとする。

 震度1の地震では、どれだけの水平力が加わるか。気象庁が震度と加速度(1ガル=1ab/秒/秒)の関係式を示している。地震動の周期の違いにより値は大きく異なるため、調査団は周期0・4秒程度の地震を想定した。その場合で1ガル。重力加速度980ガルの0・1%程度だ。つまり100`cの人なら100cの力で横に押された状態と言える。それだけで力のつり合いが崩れ、動き出すとの結果になった。

 高く盛土するほどすべり崩壊の危険性は増す。完成時の高さまで盛り上げなくても、震度2(3ガル)や3(10ガル)の地震で崩壊することもわかった。沖縄ではここ10年間の記録から、震度1以上の地震は年6回、震度2以上が1回、震度3以上は3年に1度の頻度で起きている。盛土作業中に地震があれば、間違いなく崩壊し、作業員は巻き込まれる。「自然災害」では済まない。



 

地震無視した防衛省

 調査団の報告書に対し、河野太郎防衛大臣は「計画通り進める」と無視を決め込んだ。菅義偉官房長官も「技術基準に基づいて耐震性能も設定されており、問題ない」と答えている。

 では技術基準はどう書いているか。国土交通省の「空港土木施設設計要領」(耐震設計編)には、高盛土の場合、円弧すべり解析を行うことにしているが、詳細は他の技術書を参考にしている。最も汎用性のある「道路土工―軟弱地盤対策工指針」を見ると、円弧すべりの安定計算をする場合、地盤の種類や地域特性に応じた地震力を加える。これによれば今回の場合は80ガルになる。つまり、周期0・4秒の地震では震度5弱に匹敵する力だ。技術基準では、この力でも崩壊しないことを求めているが、実際の設計はそうなってはいない。

 防衛省は都合の悪い地質データを破棄し、設計条件も都合よく設定しケーソンなどの安定計算を行っている。調査団は、その防衛省の条件を使って検証した。防衛省は地盤の安定性について地震の影響をまったく検討せず、「安全だ」と説明しているのだ。

 年に何回も起こりうる地震で崩壊するような構造物をなぜ1兆円近い(政府試算)税金をつぎ込んで建設するのか。工事は自然破壊を引き起こすだけで、何の役にも立たない。イージス・アショア同様、直ちに中止すべきものだ。
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