2020年07月31日 1635号

【コロナ禍 命と生活を守る介護現場―老健施設/高齢者の“意欲や思い”を大切に/財政支援、人員増は待ったなし】

 新型コロナウイルス禍の下、介護老人保健施設(老健<注>)も厳しい状態に置かれている。大阪府下の中規模老健施設スタッフAさんに現場の状況と思いを聞いた。

 Aさんが勤める老健施設の入所者は98人(定員は100人)で、医師や看護師・介護職員など94人が働いている。

 施設が提供しているのは、(1)在宅生活への復帰や特養・有料老人ホームへの移行に向けて日常生活動作を獲得するリハビリ支援(2)在宅生活の継続のために高齢者とその家族を支援するためのショートステイ受け入れ(定員は4〜5人で、1〜14泊)(3)医療管理の提供(胃瘻(ろう)・点滴など)(4)ターミナルケア(看(み)取り)支援だ。

コロナの我慢いつまで

 コロナウイルス感染症対策のために、職員の検温、手洗いはもちろん、常時マスクをつけて利用者間の距離も広くとっている。最低でも日に2〜3回は机やいす、手すりなどを消毒する。さらに家族の面会制限や施設行事の制限など、これまでになかった対応が求められている。

 利用者にとっていちばんのストレスは、家族と自由に会えないことだ。

 家族が持ち込む甘いものを一緒に食べることを楽しみにしている利用者も多い。しかし、その食品の検査まで職員が確実に行うことは難しいため、持ち込みを断らざるを得ないのが現状だ。

 今、職員に最も負担となっているのは、外部との接触を遮断していることでのストレスと、それに対応する手間が大変になっていることだ。

 コロナ禍の中で介護する側の不安を、Aさんは次のように語る。

 「自分が無症状であっても感染していると想定して介護を行うことを常時意識するというのは非常に難しいんです。その意識を保つように、職員間で互いに声をかけ合うようにはしていますが、もし、自分が感染症を持ち込んでしまったらとんでもないことになる。そう思うストレスはとても大きいものです」

感染させないために

 行政に対してAさんは、真っ先に次の2点を求めている。

 高齢者と日々緊密に接することが不可欠な介護従事者にとって必須である、無症状でもPCR検査を受けることができる医療体制。

 マスク、アルコール、防護具などを使い捨て可能にできる防疫用品の供給体制確立。現状は、マスクは1人1日1枚の限定で、他の物品も日々在庫を確認して市場価格の見合いで調整しているというものだ。

 「利用者と家族とともに、幸せな時間や喜びを共有できたとき、かけがえのない喜びを感じます」と、介護を通じてのやりがいを語るAさん。

 ところが、月に7・8回の夜勤に加え休日もアルバイトをせざるを得ない子育て中の職員がいるなど、まだまだ報酬の低い現実がある。国の介護報酬切り下げは介護現場を直撃している。

尊厳ある介護を求めて

 また、介護職員数は、法律上の基準はクリアしていても、現場では不足している。落ち着いて高齢者と関わる時間が少ないことから「介護の仕事でやろうと思っていた関わりができない」と悩む職員は多い。たまには外気浴や外出をして気分転換したい、ゆっくり話を聴いてほしい、家に帰れるようにもっとリハビリしたいなどの高齢者の意欲や気持ちに応えたいのに、ナースコールに追われてできないと悩んでいる。

 介護施設には今、国・自治体による財政的物的支援と人員増が緊急に求められている。

 そのことによって初めて、利用者・家族・介護者ともに尊厳ある人間らしい生活を取り戻すことができる。

<注>
 老健とは、要介護高齢者の「自宅復帰を目指す」ことを基本的目標として「原則3〜6か月」の期間で医学的管理の下、看護・介護を提供する施設。

MDSホームページに戻る   週刊MDSトップに戻る
Copyright Weekly MDS