2020年07月31日 1635号

【東京都知事選とメディア/小池の「だんまり作戦」に加担/コロナ感染拡大の共犯者】

 小池百合子都知事が再選を果たした東京都知事選挙。政策論争を避けたい小池陣営は「だんまり作戦」終始。これに大手メディアは加担した。テレビ討論会はなく、選挙報道も低調。都政を検証する機能は働かず。その帰結が現在のコロナ感染再拡大である。

テレビ討論なし

 選挙戦の最終盤、宇都宮健児候補は東京都の新型コロナウイルス対策に疑義があるとして、小池知事に公開質問状を送った。政策論争の機会を奪われたため、そうした手段を取るしかなかったという。「私は過去2回、都知事選に出馬しているが、地上波でのテレビ討論会が開催されないのは初めてだ」

 宇都宮陣営の海渡雄一選対部長は「都民の命と暮らしをどうすれば守れるのかなど政策論争を通じて都政の対応を検証し、有権者に判断材料を提供したいが、できない」と指摘。報道各社には討論を企画する社会の公器としての責任がある」と訴えた。

 他の立候補者も小池陣営の「雲隠れ戦術」を手助けした大手メディアの姿勢を厳しく批判した。「テレビは小池さんにつっこませないように、(小池を)守っている。憤りを感じる」(山本太郎候補)。

 たしかに、テレビ討論会がないのは異常である。過去の都知事選では、2014年2月の「報道ステーション」(テレビ朝日系)や、2016年7月の「バイキング」(フジテレビ系)など、主要候補者が出演する討論会が放送されていた。

 候補者どうしの議論は、都政の課題や争点を明確にするために必要である。しかも今回の選挙はコロナ対策のために街頭での訴えを制限せざるを得なかった。テレビ局をはじめとするマスメディアの責任は、いつも以上に重かったのだ。

 もし、地上波のテレビ番組で討論会が行われていたなら、「小池圧勝」という結果は変わっていたかもしれない。根拠はある。ネット討論会における小池のうろたえぶりがそうだ。

小池の弱点隠し

 6月27日、主要候補者による生討論会がインターネットメディア「Choose Life Project」の主催で実現した。小池は他の候補者や司会者からの質問にまともに答えられなかった。たとえば、「『豊洲は活かす、築地は守る』という公約はどうなったのか」という宇都宮候補の質問に対する回答(?)である。

 「あの、豊洲市場の皆さん、今回のコロナの緊急体制のもとにおいてですね、まあ、料理、料亭等を含めてですね、外食等がなかなか厳しいというとことで、その分、特に高級魚などの売上が落ちたということでございます。逆にお家でみんな食事をする際に、えー、この、スーパーでの売上は逆に伸びたということであります」

 質問への答えになっていない。関連性がない事柄を長々と喋り続けることで聞いている者を煙に巻く手口は、安倍晋三首相の国会答弁とまったく同じだ。

 司会の津田大介(ジャーナリスト)から追及を受けた際の反応にも注目したい。津田の質問は「関東大震災の際の朝鮮人虐殺犠牲者への追悼文の送付をなぜやめたのか。それはどのような歴史認識にもとづいているのか」というもの。小池はこう答えた。

 「関東大震災そしてまたその先の、大戦で犠牲になられた方への、また大きな災害で犠牲になられた方々への哀悼の意を表しているところであります。それに続いて様々な事情で犠牲になられた方。これら全ての方々に対しての慰霊というその気持ちに変わりはございません。 えー、そして、何でしたかしら?」

 論点のすり替えで逃げようとしていることが見え見えで、誠実さに欠ける。弱者にとことん冷たい小池百合子の本性がかいま見えた瞬間だった。これがテレビで流れることを小池陣営は嫌がったのだろう。3年前の記者会見で「(リベラル派を)排除します」と口走り、新党の急失速を招いた失敗を恐れたのだ。

 うわべの自己演出は得意でも論理的な受け答えができず、追及されると簡単にボロを出す。小池のこうした弱点をマスメディアは突こうとしなかった。選挙戦の前から飼いならされていたからだ。

選挙の前から番犬化

 都知事の定例記者会見において、小池はお気に入りの記者ばかり指名している。連中のべんちゃら質問に小池がにこやかに答え、会見場の前列に陣取る民放キー局の女性記者がうなずいて見せる。そんな茶番劇が定番となっている。

 一方で、小池に厳しい質問をする記者は徹底的に無視されている。その代表格が横田一記者だ。前述の「排除します」発言を引き出したフリージャーナリストである。質問の機会を与えられない横田記者は、会見を終え立ち去ろうとする小池に、大声で“声かけ質問”をするしかない。

 コロナ禍の問題では都内の病院で医療崩壊寸前の事態が起きている事実を何度も突きつけた。しかし小池は完全無視。都庁記者クラブの面々は冷笑スルーを決め込んだ。横田記者の質問を「大声野次にネット騒然」(デイリースポーツ6/10配信記事)と報じたスポーツ紙も。まさに、小池の番犬と化している。

  *  *  *

 「なぜPCR検査数が増えないのか」「一連の保健所統廃合、人員削減をどう考えるのか」。宇都宮候補の公開質問状は小池都政のコロナ対策を鋭く追及するものであったが、大手メディアはほとんど取り上げなかった。選挙対策上、感染者数の再増加を軽く見せたかった小池の策動に加担したのである。その振る舞いは「コロナ失政」の共犯者というほかない。 (M)



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