2020年08月07日 1636号

【未来への責任(303) 歴史歪曲の産業遺産センター(上)】

 6月15日にオープンした世界遺産「明治産業革命遺産」の産業遺産情報センターの展示内容が今、日韓両政府の紛争の火種となっている。

 太平洋戦争当時、軍艦島(端島炭鉱)をはじめ長崎造船所、八幡製鉄所、三井三池炭鉱で、侵略戦争拡大による労働力不足を補うため朝鮮人・中国人・連合軍捕虜が強制労働を強いられたのは、動かすことのできない歴史的事実である。端島・高島炭鉱には朝鮮人約4000人、中国人400人余が動員されている。

 日本政府は世界遺産登録時に「意思に反して連れて来られ厳しい環境の下で働かされた多くの朝鮮半島出身者等がいたことについて理解できるような措置を講じる」とともに「インフォメーションセンターの設置など犠牲者を記憶にとどめるために適切な措置を説明戦略に盛り込む」とした。これを受け第39回ユネスコ世界遺産委員会は「各サイトの歴史全体についても理解できる展示戦略」を実施することを条件に登録を承認した。

 日本政府の言う「朝鮮半島出身者等」には朝鮮人のみならず中国人や連合軍捕虜も含まれている。また、「インフォメーションセンター」にはこれら強制労働の犠牲者も含めたすべての犠牲者の「歴史」が記載されなければならない。政府自ら犠牲者とは「出身地のいかんにかかわらず炭坑や工場などの産業施設で労務に従事貢献する中で事故・災害等に遇(あ)われた方々や亡くなられた方々を念頭においている」と見解を示している。

 ところが、2017年11月ユネスコへ提出した報告書では朝鮮人の強制労働だけが取り上げられ「労働を強いられた(forced to work)が日本の産業の現場を支えていた(supported)」と真逆に書き換えられた。そして「インフォメーションセンター」は23資産のうち21か所が集中する九州・山口地方ではなく、遠く離れた東京に設置するとしたのである。

 2018年6月、この報告書を審査した第42回ユネスコ世界遺産委員会は、対象となる明治期だけでなく期間外も含めた「歴史全体」を最も効率よく説明することと「関係者」との対話を継続することを改めて勧告した。しかし日本政府は「関係者」である韓国政府とは一切協議せずセンターを今回オープンさせた。

 日本の産業近代化は数多くの労働者の犠牲によってもたらされた。センターの展示内容はそうした「全体の歴史」からは程遠く、当事者の被害証言はひとつもなく「強制労働や朝鮮人差別はなかった」という証言が展示される歴史歪曲の極みといえるものであった。

(日本製鉄元徴用工裁判を支援する会 中田光信)

 
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