2020年08月07日 1636号

【在日米軍でコロナ感染拡大/基地を通れば出入国フリー/日米地位協定という抜け穴】

 在日米軍関係者の新型コロナウイルス感染が急拡大している。米軍基地が集中する沖縄県では、県民の命や健康を脅かす深刻な事態となっている。なぜ、このようなことが起きているのか。背景には、現代の治外法権というべき日米地位協定の存在がある。

特に深刻な沖縄

 基地ごとの新型コロナウイルス感染者数をようやく公表するようになった在日米軍司令部。当初は、部隊の運用に影響を及ぼすおそれがあるとして、「個別の部隊や基地の感染者数は公表しない」と言い張っていたが、基地周辺住民や自治体からの批判を受け、姿勢を変化させた。

 7月24日現在の陽性者数は計189人。青森県の三沢基地、神奈川県の横須賀基地、厚木基地、キャンプ座間、東京都の横田基地、山口県の岩国基地、沖縄県の嘉手納基地、普天間基地、キャンプ・ハンセンなど、全国11施設に及ぶ。

 感染者の9割近くが集中する沖縄は特に深刻だ。複数の基地で大規模な感染者集団(クラスター)が発生。基地で働く日本人労働者や出入りのタクシー運転手の感染も判明した。米兵経由の市中感染がすでに起きているのではと、県民に不安が広がっている。

 米軍は今、会計年度の切り替わりにともなう人事異動の季節にあたり、在日米軍基地には大勢の米兵や軍属が押し寄せている。このことが感染拡大を招いた可能性が高い。基地内外での大規模パーティー開催など、感染予防を軽んじた事例も多々あった。

 しかし、読者の皆さんは根本的な疑問を抱かれたのではないだろうか。「日本はコロナの水際対策として米国からの入国を拒否しているはずだ。なぜ米軍関係者は基地を通して自由に出入りできるのか。米軍は例外なのか」と。

 たしかに、米軍関係者は入国拒否の対象になっていない。検疫に関する日本の法律も適用されない。なぜか。在日米軍の法的地位を定めた日米地位協定によって、特権的な地位が認められているからだ。

国内法の対象外

 日米地位協定第9条2項は「合衆国軍隊の構成員は、旅券及び査証に関する日本国の法令の適用から除外される。合衆国軍隊の構成員及び軍属並びにそれらの家族は、外国人の登録及び管理に関する日本国の法令の適用から除外される」と定めている。日本政府はこの規定にもとづき、米国の軍人・軍属、その家族の入国を認めている。

 現在、日本の民間空港から入国する米軍関係者には、新型コロナウイルス感染の有無を調べるPCR検査を日本側が行っている。日本の検疫免除という地位協定の効力が一時停止されているということだ。

 ただし、米軍関係者の大半は軍用機やチャーター機を使って在日米軍基地に直接入る。この場合、検疫措置は米軍が担う。入国後14日間の移動制限と公共交通機関の利用禁止が定められているというが、その実態はうかがい知れない。PCR検査の対象は症状がある人に限られていた。

 新型コロナ感染が判明した普天間基地所属の米兵の場合、米シアトルからのチャーター便で嘉手納基地に到着したのだが、両空港とも体温検査と簡単な質問票の記入のみで、PCR検査は実施されなかったという(7/15沖縄タイムス)。

 そもそも、日本政府は自国領内にどういう米国人が何人いるのか、把握できていない。地位協定が米軍関係者に「出入国自由の特権」(出入国管理法の適用除外)を認めている以上、水際対策などザルにすぎないのである。

韓国との落差

 沖縄県の玉城デニー知事は7月15日、日本に入国する全ての米軍関係者へのPCR検査実施や、日本の検疫法が在日米軍に適用されるよう地位協定の改定を求める要請書を河野太郎防衛相に手渡した。

 感染拡大が止まらない事態に至り、在日米軍司令部は海外から基地に直接入国する米兵や家族ら全員にPCR検査を義務付ける指示を出した(7月24日以降の措置)。とはいえ、地位協定改定の要求については知らぬ顔を決め込んでいる。

 日本政府もだ。菅義偉官房長官は「米軍と必要な情報共有はしている」とくり返すが、市民への情報公開はまだまだ限定的だ。

 同じ米軍でも在韓米軍の場合、感染者の所属部隊や属性、感染経路、隔離場所などの情報を早くから公開していた。入国時のPCR検査も義務付けていた。この対応の差は日韓政府の姿勢の違いに起因するとしか言いようがない。

 軍隊という感染必至の環境に置かれている米兵たちもある意味被害者だ。基地が人びとの命や安全を守らないことがコロナ禍でも示されたのだ。   (M)

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