2020年08月07日 1636号

【読書室/ルポ 技能実習生/澤田晃宏著 ちくま新書 本体860円+税/借金までしてなぜ日本を目指すのか】

 日本は今や、外国人労働者が人手不足の産業を支える移民労働社会である。そして、現在のコロナ禍で苦境に立たされているのも移民労働者だ。本書は、国際的な労働力移動の裏側に迫るルポである。

 移民労働者の中でも差別や人権侵害が集中しているのが技能実習生だ。現在、その主役はベトナム人である。著者は、多額の費用をかけても日本をめざす若者の思いを掘り起こす。

 ベトナムの農家の平均的な月収は2万円ほど。それが、技能実習生として日本に行けば、手取りで15万円ほどの給与から住居費や生活費を引いても毎月8万円ほどを貯蓄し、3年間で15年分の年収に相当する300万円を貯めて帰国できる―。そんな「成功体験」を伝え聞いた実習生希望者が後を絶たない。

 しかし、技能実習で成功するとは限らない。日払いの建設業などは天候不順で月収10万円を切る。サービス残業、奴隷労働は論外としても、残業がない職場を実習生はむしろ「歓迎しない」。収入が減るからだ。そのため、実習期限間近で期待した貯金ができず失踪するケースも多いという。

 ベトナム国内には日本への送り出し機関の訓練センターがある。事業所斡旋から日本語指導まで面倒を見る。実習生は借金をして、平均80万円ほどの費用を支払っている。その一部は、送り出し機関から日本の企業管理団体へのリベートになっている。

 こうした利権構造が、新制度となった「特定技能制度」でも、指摘されてきた多くの問題が改善されない背景となっている。日本の移民労働者受け入れ制度は構造的な欠陥をはらんでいるのだ。     (N)
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