2020年08月14・21日 1637号

【ミリタリーウォッチング 先制攻撃能力保有を提言 憲法・国際法違反の大転換】

 6月、防衛省は突然、秋田・山口へのイージス・アショア配備の断念を発表した。両地域とも住民の強い反発を背景に反対運動が展開されており、良かったとの受けとめだったと思う。しかし、河野太郎防衛相が撤回の根拠としたのは、迎撃ミサイルのブースターがどこに落下するか住民の安全を保証できないことやコスト問題だった。「だったらなぜ沖縄の辺野古新基地建設は撤回しないのか。ダブルスタンダードだ」の声も多く挙げられた。当然だ。

 いうまでもなく、安倍政権が考えていたのは住民の安全などではなかった。

 本紙1632号8面「欠陥兵器『爆買い』の失態隠し」の記事は、官邸主導により、開発途上でイージス・アショア用としては「使い物」にもならない米国ロッキード・マーチン社製のレーダーSSRを購入する契約をした「経緯」を指摘している。また東京新聞社会部『兵器を買わされる日本』(文春新書)は、このSSRとSPY―6(レイセオン社製)という2つのレーダーのうち、性能が明らかにまさる後者ではなく、製造も試験もしていない前者を選んだ政府のばかげた選択について触れている。



 SSRは今後製造や試験等の費用を日本側に求めるため、価格がはるかに高くなるのは明白だった。官邸・防衛省ともとんでもない失敗をやらかしたわけだ。

 大失態を隠すために、安倍政権が改めて持ち込んできたのが「敵基地攻撃能力」だ。1956年以来、政府は「座して自滅を待つべしというのが憲法の趣旨とは考えられない」という当時の首相鳩山一郎の国会答弁を引き継ぎ、相手が武力攻撃に着手している時点での相手国の基地攻撃は「合憲」と主張し続けてきた。

標的は中国、朝鮮

 自民党防衛族は、政府のイージス・アショア断念発表からわずか2週間で小野寺五典(元防衛相)を座長とする「ミサイル防衛に関する検討チーム」を立ち上げ、7月31日には「相手領域内でも弾道ミサイルなどを阻止する能力」として敵基地攻撃能力の保有を求める「提言」を提出した。

 自民党提言は、従来の弾道ミサイル防衛にとどまらず、中国や朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の新たなミサイル技術を意識している。歴代政権も建前としてきた「専守防衛」の大転換であり、日本国憲法を真っ向から踏みにじるものだ。「先制攻撃」は国際法から見ても違法である。

 政府は、9月まで国家安全保障会議(NSC)で議論し、年末までに新たな安保戦略を決めようとしている。これを止める闘いをともにつくり出そう。

藤田なぎ
平和と生活をむすぶ会
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