2020年08月28日 1638号

【「都構想」は新自由主義の帰結/大阪維新の巨大開発願望/切り捨てられるコロナ対策】

 大阪市を解体する「大阪都構想」が最重要局面を迎えている。松井一郎大阪市長(大阪維新の会代表)・吉村洋文府知事(同代表代行)は8月18日開会の府・市の両議会で「特別区設置協定書」を承認させ、11月1日にも住民投票を強行しようとしている。深刻なコロナ禍に目もくれず、実現に突き進む「都構想」。これこそ、新自由主義政策の帰結であり、維新政治もろとも葬り去らなければならないものだ。

5年前と狙い変わらず

 今度の「大阪都構想」は5年前とどこが違うのか。大阪市解体後に設置される特別区の数が5から4に減っただけだ。275万人の指定都市を消し、新たに60万から75万人の4都市を生み出すことになる。



 新型コロナ感染症など新たな課題に対応できる自治体へと見直しがされているのかと言えば、何もない。「大阪モデル」で注目を集めた吉村だったが、結局根拠のない発言を繰り返すパフォーマンスだけで混乱を招いている。こんな時に、無展望に組織を解体・設置するのはさらなる混乱を引き起こし、ますます自治体の対応力を弱めることになるのは明らかだ。カネと時間をコロナ対策にかけず、逆に住民を危険にさらすことを大阪維新はなぜ強行するのか。

 大阪維新の会の設立目的は「『広域自治体が大都市圏域の成長を支え、基礎自治体がその果実を住民のために配分する』新たな地域経営モデルを実現すること」(綱領)。ひと言で言えば、「東京のように開発し、税収を増やしたい」ということだ。だから、特別区の数が4つだろうが5つだろうが関係ない。松井はテレビ討論番組で「区画割自体が大きな問題ではない。府市が一体になること」(20年1月)とその目的を明け透けに語っている。維新は指定都市の持つ広域行政、中でも都市計画の決定権と都市計画税などの財源を府に集中したいだけなのだ。

「二重行政解消」の真意

 「都構想」のスローガン「二重行政の解消」。維新の「経営モデル」でいえば、「ムダ」=不採算部門の切り捨て、外注化(民営化)ということだ。この新自由主義の政策がコロナ禍への自治体の力をそぐ事態を招いている。

 例えば、地域衛生研究所。食中毒や環境汚染などから住民を守るための検査・調査研究機関として重要な役割を果たしてきた。新型コロナではPCR検査の拠点としてその強化が求められている機関だ。人口880万人の大阪府には公衆衛生研究所が、275万人の大阪市には環境科学研究所があった。府内のもう一つの指定都市である堺市(80万人)も衛生研究所を、中核市である東大阪市(50万人)も環境衛生検査センターを持っている。

 維新にかかると、府と市が同じ趣旨の機関を持っているのが「ムダ」に映るらしい。17年4月、府の公衆衛生研究所と市の環境科学研究所は統合され「地方独立行政法人大阪健康安全基盤研究所」になった(公害関係の検査機能は市立環境科学研究センターとして存置)。全国唯一の独立採算化、つまり民営化したのだ。

 病院も「ムダ」扱いされた。老朽化した住吉市民病院の建て替え計画をとらえて、橋下徹市長(当時)は「二重行政解消」のモデルにしようと隣接する府立病院との統廃合方針を無理やり作り上げた。橋下は今年4月になって「僕が今更言うのもおかしいですが…現場を疲弊させているところがある。見直しをよろしく」とツイートした。失策と承知しながら反省しているわけではない。吉村に批判の矛先が向くのをかわしたいだけの言葉だ。

東京とは違い過ぎる税収

 維新の願いは東京と同じような「繁栄」を手にすることに尽きる。カジノと万博を起爆剤に開発ラッシュを夢見ている。しかし、例え大阪府が特別区をもつ「都」になったとしても、東京都との差は縮まらない。税収が違い過ぎる。

 「都区財政調整制度」がある。市町村であれば徴収できる税の一部(法人住民税や固定資産税など)を特別区に替わり都が徴収し、都と特別区で分配する制度だ。この仕組みは東京も大阪も変わらない。だが、この財源が潤沢な東京では、都心の区から得られる税収を他の特別区や都に回すこともできる。大阪では政府からの地方交付金を当て込んでも、行政需要を賄えない。16年度予算ベースで、100億円を超える不足が指摘されている(大阪の自治を考える研究会編「『大阪都構想』ハンドブック」公人の友社)。東京都の人口の7割を23区が占めるのに対し、大阪市の人口は府の3割程度だ。財源の貧弱な大阪「都」は特別区から吸いあげるだけだ。

 府・市はコロナ後の税収悪化を見込んだ特別区財政を見直したが、「税収が落ち込んだら国が措置する」(松井)と無責任に放言する。特別区が立ち行かなくなっても国が面倒みるはずがない。彼らの「経営モデル」とはこんなものなのだ。





 東京一極集中はなぜ起きたのか。まさに新自由主義経済の競争原理、「経済効率」がもたらしたものだ。その路線を純化しようと言うのが「大阪都構想」である。「副首都だ」と叫んでみたところで、大阪が浮上できると思うのは幻想に過ぎない。新自由主義のルールとはそういうものだ。

 しかし、維新の悪あがきが市民生活をますます困窮させることを見過ごすわけにはいかない。仮に維新の思惑通りとなれば、新自由主義の路線を延命させてしまうことになる。これは大阪だけの問題ではない。

   * * *

 2015年5月に行われた旧案での住民投票は、投票率66・83%(投票数約140万票)、反対が1万票(0・7ポイント)上回った。今回もし強行されれば、二度と都構想を復活させないよう大差で拒否しなければならない。コロナ無策、住民サービス切り捨ての都構想を葬り去ろう。新自由主義と決別する重要な一歩とするために。
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