2020年08月28日 1638号

【自民党 敵基地攻撃能力保有を提言/フルスペックの軍隊へ蟻の一穴】

 8月4日、自民党政務調査会は「国民を守るための抑止力向上に関する提言」を決定し安倍内閣に提出。安倍首相は即座にNSC(国家安全保障会議)を招集し、この「提言」に基づく「国家安全保障戦略」改定の検討を開始した。安倍は7月のイージス・アショア断念時に「代替措置」の検討を表明していた。「提言」はこれに呼応し、ひと月余りでまとめられた。

 「提言」は「敵基地攻撃能力保有」を求め、自衛の名で先制攻撃を合理化することを狙う。イージス・アショア導入は、攻撃のための守りを固める意図であったが、兵器そのものは飛来するミサイルを打ち落とすもので、相手領域を攻撃する兵器ではない。その代替措置を口実に先制攻撃可という全く性質の異なる政策決定を求めている。火事場泥棒≠ノ等しい。

 先制攻撃を可とするのは、安倍戦争政策の既定路線だ。安倍政権はいつでもどこででも武力行使できる軍隊=<tルスペックの軍隊保有をめざしてきた。改憲策動や戦争法もその一環だ。装備面でも、無人偵察機グローバルホーク導入、巡航ミサイルの開発、軽空母「いずも」のF35B搭載空母化=攻撃空母化の予算をすでに計上している。安倍は政府の政策決定とするタイミングを計っていた。

 「提言」は、「敵基地攻撃能力」を「わが国への武力攻撃の一環として行われる、国民に深刻な被害をもたらしうる弾道ミサイル等による攻撃を防ぐため、憲法の範囲内で、国際法を遵守しつつ、専守防衛の考えの下、相手領域内でも弾道ミサイル等を阻止する能力の保有」とした。これは、単なる言い換えではない。戦争政策の具体化だ。

制約なき先制攻撃へ

 戦争法の下、「国民に深刻な被害をもたらす攻撃」は、国土への攻撃のみを意味しない。中東から日本へ至るシーレーン、海外展開する自衛隊支配地域、日本が参加する多国籍軍への攻撃すべてが「わが国への攻撃」とみなされうる。「阻止能力」行使の対象は「相手国領域」ではなく「相手領域」だ。「国および国に準ずる組織」にとどまらず、攻撃を仕掛けてくる勢力すべてだ。また相手からの攻撃手段は「弾道ミサイル等」とされ、「等」を短中距離ミサイル、ロケット砲まで拡張すれば、あらゆる武装勢力に「自衛」の名で先制武力攻撃が可能となる。

 今、経済政策破綻、新型コロナ対策失敗で、政権の命運は尽きつつあり、来年9月の任期内改憲は不可能だ。だが、安倍はフルスペックの軍隊を持つ「普通の国」への蟻の一穴≠あけ、憲法9条を道連れにしようとしている。

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