2020年08月28日 1638号

【MDS コロナ危機を克服し社会を変える18の政策/《第3回》 医療/コロナ危機を契機に 公共の手にとり戻す】

 新型コロナウイルスのPCR検査数と陽性者の周辺調査を見たとき、日本の少なさは世界では異常です。初期の和歌山県などや最近の東京・世田谷区など一部を除き、厚生労働省の指導もあいまって強い実施抑制が今なお続いています。

 その最前線に立たされているのが保健所と地方衛生研究所です。両組織は近年、大幅に職員数が削減され、前者は2016年までの11年間で19%、後者は2019年までの14年間で23%も減らされています。







 従来、これらの公衆衛生機関は、結核対策や食品衛生、母子保健、公害・環境汚染対策で地域に大きく貢献し、精神保健福祉、成人病予防などにも取り組んできました。検査・調査の拡充とともに、切り縮められてきた諸施策をとり戻し、「健康で文化的な最低限度の生活」「公衆衛生の向上及び増進」(憲法25条)へ住民要求にいっそう応えられる公衆衛生活動の制度改善と人員増が必要です。

医療機関の公営化

 医療供給体制の大部分を占めるのが病院・診療所です。現在、公的な一般病院は国立も含め独立法人化され、利潤優先となりいつもベッドは満杯です。コロナ流行で日常診療が制限されて大幅な収入減が進み、東京女子医大病院(民間)では巨大病院でありながら経営者が看護師の夏季一時金をやめようとして多数の看護師が退職を言い出す事態まで起きました。

 病院には公的で安定した運営が必要です。政府が計画している440もの公立・公的病院の統廃合などはもってのほかです。逆に、民間病院の公営化を進めなければなりません。

 日本では、医療費の多くが巨大製薬会社や医療機器会社に吸い込まれていくシステムが年々強化されています。そのために不要な検査や治療が増加し、医療現場の労働条件はますます悪化。他方、医師の人口当たり人数はG7(主要7か国)中最低です。夜勤の大変多い勤務体制では、看護師をはじめ特に子育て中の病院勤務は困難を極めます。労働基準法違反が前提の長時間勤務、忙しい当直の翌日にも通常勤務が課せられるような勤務体制の抜本的改善を進めるべきです。

 例えば、1つの間違いが命に直結する集中治療室。日本では1人の看護師が2人の患者を看護しますが、欧米並みに1対1で看護する高度医療に見合うスタッフと設備が必要です。

 専門家の増員は一定の時間がかかります。ただちに、専門職を補助する職種などの増員が求められます。医師や看護師の労働と違い、この労働には医療行為の「料金」である保険点数がつかず病院の収入にならないため、採用が極端に押さえられているのです。

 こうした状況は、直接的には中央社会保険医療協議会(中医協)答申による保険点数制度がもたらしています。不当に低い医療労働の点数を増額し不当に高い薬や検査の点数を減額すること、非民主的な中医協の抜本的改革が必要です。




全額公費負担拡大を

 権力者や御用学者は、治療薬やワクチンが開発されれば新型コロナはすべて解決できるかのように宣伝します。十分な科学的治験や検証もなく導入を急ぐ多くのワクチンは、治療薬アビガンと同じく無効、有害となる可能性が高いものです。開発に巨額の公費を投入する以上、副作用から市民を守るためにも開発時の元データの公表など研究の透明性が当然です。それを求める闘いは、薬偏重の日本医療の改革に不可欠で、公費や公的な保険による販売が大部分である製薬企業の経営を民主化し国有化していく第一歩です。

 今大幅に増加している失業者は、所得に比して保険料の高い国民健康保険に加入せざるを得ず、生活困窮を深刻化させます。すべての健康保険への公費負担を増やし、保険料を下げるべきです。また、小児医療無料化と同様に、コロナ関連検査はもとより、あらゆる病気・年齢に公費負担医療を拡大すべきです。

 コロナ危機により、利益を吸い上げる機関となりつつある医療の問題点がいっそう明白になりました。今こそ、利潤優先でなく、本当に健康を守る、公共のための医療を求める時です。 
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