2020年08月28日 1638号

【未来への責任(304) 歴史歪曲の産業遺産センター(下)】

 産業遺産情報センターの長を務めるのが世界遺産登録運動の中心人物であった産業遺産国民会議の加藤康子専務理事。安倍首相の「お友達」である。登録を目指していた加藤氏に「君がやろうとしていることは『坂の上の雲』だな。これは俺がやらせてあげる」と言って、官邸主導で「明治産業革命遺産」を政府推薦とした張本人が安倍首相だった。加藤氏はその後、内閣参与も務める。

 加藤氏は「韓国がさっそくクレーム―産業遺産情報センター」の見出しで『月刊HANADA』9月号に記事を載せた。130人以上の島民・関係者をインタビューしたと誇る加藤氏は、記事の中で「ある在日韓国人の証言」として元島民の鈴木文雄(在日2世)さんという韓国民団団長も務めた方を登場させている。

 高島・端島(はしま)炭鉱への強制動員が始まったとき、鈴木氏は6歳であった。隔離収容されていた当時の強制動員被害者の実態を、一般の鉱夫が生活するアパートにいた幼い鈴木氏が知っていたとは考えられない。その彼に「幼稚園の頃だったのでかわいがられた記憶はあるが朝鮮人などと差別されたことはなかった」と言わせ、「朝鮮人が奴隷労働させられて鞭打たれているのを見たか」などと問いかけ「そんな話は聞いたことがない」との証言を引き出す。ご子息まで登場させて「父は嘘をつくような人間ではない」と語らせている。このような「間接証言」を加藤氏は「貴重な一次史料である」と吹聴しているのだ。証言者への冒涜(とく)でもある。

 この記事には過去清算共同行動で徴用工問題に取り組む矢野秀喜氏も登場する。「有名な活動家が来館」などと見学者である矢野氏に「レッテル」を貼り、センター内での加藤氏と矢野氏のやりとりを勝手に公開している。おまけに同行者の個人情報も調べ上げて暴露している。仮にも産業遺産情報センターは国の施設であり、いわば博物館である。その責任者が見学者の個人情報を断りなく雑誌に書きたてる。このようなことは許されない。また、センターは矢野氏本人の許可を得ることもなく、使途も明らかにしないまま見学の様子をビデオに撮ったという。これもまた明らかに違法行為であろう。

 歴史修正主義の問題だけでなく、来館者に対して不当な人権侵害を行う。こうしたことが平然とまかり通っているのが産業遺産情報センターである。これをこのまま放置していて良いはずがない。

(日本製鉄元徴用工裁判を支援する会 中田光信)

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