2020年08月28日 1638号

【「うがい薬でコロナに打ち勝てる!」/イソジン吉村のハッタリ会見/これが維新の「やってる感」】

 「うがい薬で新型コロナウイルスに打ち勝てる!」とぶち上げた吉村洋文・大阪府知事。大風呂敷を広げてはみたものの「医学的根拠がない」との批判が殺到し、釈明に追われることになった。この騒動には維新流「やってる感」政治の本質が詰まっている。

医学的根拠なし

 8月4日に行われた吉村知事と松井一郎・大阪市長らの記者会見。生中継したワイドショー番組の「“コロナ”治療 効果が期待できる薬 発表へ」という煽り文句につられ、思わず見入ってしまったという方は多いだろう。

 その内容はたしかに衝撃(笑撃?)的なものだった。なにしろ、市販のうがい薬でうがいをすると「コロナの陽性者が減っていく」などと言い出したのだから。吉村が「うそみたいな本当の話」と切り出した会見内容は次のとおり。

 “新型コロナ感染症の軽症患者にポビドンヨードを含んだうがい薬でうがいを続けてもらったところ、唾液を使ったPCR検査で陽性になる割合が、うがいをしなかった患者に比べて低いという研究結果が得られた。府民の皆さんには(イソジン等の薬で)うがいを励行してもらいたい”

 「寝言は寝て言え」としか言いようがない。うがい薬の殺菌作用で口内のウイルスが減るのはあたりまえだ。気道や肺、鼻の中にはウイルスが残っている。そんな状態でPCR検査を行えば、「偽陰性」を増やすことになりかねない(それが狙いならひどすぎる)。

 感染の可能性をかえって高める危険もある。殺菌力が強いポビドンヨードは口腔内の常在菌をも破壊し、のどの粘膜を傷つける。ウイルスの侵入を防ぐ仕組みを壊してしまうのだ。

 そもそも、研究の対象がわずか41人では話にならない。「ポビドンヨードを使ったうがい」と「使っていないうがい」との比較すらしていないという。こんな「研究結果」を得意げに披露し、「コロナに打ち勝てる!」と大宣伝するなんてバカげている。

 なお、ポビドンヨードの成分を含んだうがい薬でのうがいはヨウ素の過剰摂取につながり、甲状腺機能の低下を招くおそれがある。妊娠中や授乳中の方は使用を避けるべきだが、吉村や松井はそのことに一切触れなかった。

結局「都構想」のため

 自治体の首長がデマの拡散に等しい呼びかけを行ったことに対し、医療関係者などから批判や抗議が相次いだ。吉村は「予防効果があるとは言っていない」と釈明したが、後の祭り。ネットは大炎上し、「イソジン吉村」「大阪イソジンの会」と揶揄された。

 大阪維新の2トップはなぜ、科学的根拠を無視した「コロナ退治法」を吹きまくったのか。まず言えるのは、経済活動優先路線が裏目に出て、感染拡大が止まらなくなった失策をごまかすためである。

 もっと大きいのは、維新の悲願「大阪都構想」との関係だ。維新は住民投票の11月実施を目指しており、8月から賛成の投票を呼びかける広報活動を本格化させた。とはいえ感染拡大を懸念する声は強い。だから、「効く薬が見つかったので大丈夫」と訴える必要があったというわけだ。

 ハッタリ上等の「やってる感」アピールは、創業者の橋下徹から受け継がれた維新の伝統芸だ。維新政治の本質と言ってもいい。新型コロナウイルス対策で言えば、「大阪産ワクチン」や休業要請・解除などの大阪府の独自基準「大阪モデル」などが該当する。

 「大阪モデル」はこれまでに2回修正されている。感染者の増加傾向が見え始めた途端、休業要請したくない吉村が「黄信号」「赤信号」点灯基準を引き上げたのだ。旧基準のままなら7月24日には「赤信号」が点灯していた。

 「大阪都構想」との関連で言えば、松井が「赤信号が点灯すれば住民投票を延期する」と述べていた。そうならないように、先手を打って基準の方を変えたのだ。維新にとって住民の命や健康は二の次にすぎないことがよくわかる。

口だけ男に反省なし

 吉村は巧みな自己宣伝と情報発信によって、「若さと実行力でコロナと戦う知事」というイメージを売り込んできた。それが虚像であることが今回の騒動でバレたわけだが、当の本人は自分の非をかたくなに認めようとしない。

 うがい薬の使用呼び掛けはいまだに撤回していないし、批判を封殺するような言動をくり返している。日本維新の会の馬場伸幸幹事長は、吉村会見を批判した大阪の医療団体を「共産党系」と決めつけ、批判するなら「実現性のある提案」を出せとかみついた。

 吉村人気に群がっているテレビ局は案の定、彼に甘い。8月4日の会見を生中継した『情報ライブ ミヤネ屋』は6日の放送に吉村を生出演させ、その弁明を無批判にたれ流した。維新と蜜月関係にある吉本興業の芸人は「アグレッシブさは買ってあげたい」(松本人志)など、全力擁護を買って出ている。

 朝日新聞など一部のメディアは批判的な報道をしているが、それで吉村人気が急落するとは考えにくい。特に大阪では「ナニワのヒーローを守れ」的なファン心理が働くだろう。

 あんなデタラメ会見でも、各地の店舗で当該製品の売り切れが続出した。苦しい状態に置かれた人びとは問題解決の「特効薬」を待ち望んでおり、怪しいものでも飛びついてしまうということだ。「大阪都構想」も同じことが言える。

 維新詐欺の撃退は容易ではない。コロナ危機に対応できない医療の貧困は、連中の公的医療切り捨て政策がもたらしたことを粘り強く人びとに訴えていかねばならない。    (M)



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