2020年09月04日 1639号

【香港民主化運動への弾圧/政府批判を「犯罪」にする国家安全法/中国習政権の焦り反映】

露骨な直接介入

 政府批判を口にすると逮捕される。有罪となれば終身刑が待っている―香港は今そんな政治状況にある。

 中国の全人民代表会常務委員会(全人代常務委)は6月30日、「香港国家安全維持法」(国安法)を制定、即日施行した。これにより4つの行為が厳罰の対象となった。▽国家分裂―「香港独立」の主張・活動や政党の結党▽中央政府転覆―SNSでの中国批判、天安門事件を扱う集会開催▽テロ行為―デモでの破壊行為▽外国勢力との結託―中国政府への制裁を外国に呼びかけること。

 8月10日、日本語や英語などで民主化支援を海外に訴えてきた周庭(英語名アグネス・チョウ)さん(23)はじめ10人が逮捕された(うち4人は国安法以外との報道も)。「外国勢力と結託して国家の安全に危害を加えた」容疑だという。政治団体を解散し発信を控えていた周さん。逮捕容疑に覚えがない。法の解釈権は全人代常務委にある。国安法での逮捕者21人、在外活動家7人も指名手配(8月10日現在)されているが、どんな行為が法に触れたのか、明らかにされていない。

 国安法で取り締まり機関の強化も行われた。行政長官をトップにした国家安全維持委員会とともに中央政府の出先機関として国家安全維持署を新たに設置。中央政府が直接、指揮・監督にあたることになった。

有名無実「一国二制度」

 香港は中国の憲法で特別行政区として自治が保障されている。香港基本法(90年公布)第2条には「全国人民代表大会は…香港特別行政区に高度の自治を実施し、行政管理権、立法権、独立した司法権および終審権を享有する権限を(香港に)授与する」。第5条には「社会主義制度と政策を実施せず、現行の資本主義制度と生活方式を50年間維持する」と定めてある。

 この「一国二制度」の規定は英国占領下にあった香港返還(97年)に際し、中英両国が合意したものだ。だが返還後23年で、中国は香港立法会の頭越しに法を制定し、合意を反故(ほご)にしたことになる。

 基本法第23条を根拠にした国安法。香港行政府・立法会も条例制定に動いたが、市民の抵抗にあってきた。03年には50万人の抗議デモが起こり断念している。香港の市民は「高度な自治」の実現に向け、粘り強く民主化運動を重ねてきた。

 11年には中高生が「愛国教育」の教科化に反対し、撤回させた。周さんもその一人だ。14年には行政長官の普通選挙を求めた「雨傘運動」が起こった。19年には「逃亡犯条例」撤回の闘いで勝利した。この時、人口750万人の香港で200万人の市民がデモに参加したという。香港政府に「国家安全条例」を強行する「力」はなかった。


中国民主化へ飛び火も

 中国にとって香港は貿易の中継地・国際金融センターであり、「高度な自治」を維持する意味があった。香港の輸出先トップは米国であり、その8割が大陸からの再輸出だという。

 なぜ習近平(シーチンピン)政権は強硬策に出たのか。一つには、民主化運動が大陸へ飛び火するのを恐れたのだ。習政権は18年に憲法を変え長期独裁政権を可能にしたものの、政権基盤は盤石ではない。コロナ禍による経済悪化で賃金不払い、遅配に対する労働者の抗議行動が頻発しているという(高原明生・東大教授5/23朝日)。香港の民主化運動は89年の天安門事件以降、事件が起きた6月4日に集会を開いてきた。中国は「香港が外国勢力と結ぶ反体制派の拠点になっている」(5/29朝日)と警戒している。

 もう一つは、米国との経済対立が激化する中で、米国の制裁に屈しない姿勢を見せる必要があったことだ。トランプ政権は大統領選勝利のカードとして中国批判をエスカレートさせている。一方、習政権のスローガン「中国製造2025」は、あと5年で米国を追い抜くことが目標だ。求心力を維持するためにも、引くことはできないのだ。

   * * *

 米中政権の思惑がどうであれ、政府批判が犯罪となる法律がまかり通っていいわけがない。民主主義の根幹である基本的人権が擁護されない社会は、政治的弾圧とともに経済的弱者を生み出し、犠牲にしていく。

 これは中国の国内問題ではない。自由と民主主義を求める市民の国際的連帯が何よりも必要だ。
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