2020年09月11日 1640号

【GDP戦後最悪の下落/コロナのせいではない/アベノミクスの失敗明らか】

 安倍晋三首相は8月28日の辞任会見で、あれほど連呼していたアベノミクスに一言も触れなかった。安倍が政権の座に長居できたのは、アベノミクスで国政選挙に勝利してきたことが要因の一つとされる。だがデフレ脱却をうたったアベノミクスは何ひとつ成果をあげていないことがばれた。今さら口にすることなどできなかったのだ。アベノミクス幻想崩壊、これが安倍政権の命脈を断った。

 内閣府が8月17日に発表した4〜6月のGDP(国内総生産)。1〜3月期に比べ3割近く減少し、年率換算で27・8%のマイナスを記録(速報値)。戦後最悪の落ち込みになった。

 幻想をあおり続けてきたマスコミは「消し飛ぶアベノミクス」(8/18共同通信)と、新型コロナで台無しになったかのような負け惜しみを書いた。だが、成果などコロナ以前にもひとかけらもなかったのだ。

幻想ふりまくマスコミ

 安倍政権は今年2月まで「戦後最長の景気拡大」と宣伝していた。うそだった。その「景気拡大」は、すでに2018年10月に終了していた。内閣府の「景気動向指数研究会」が7月30日にそう認定した。「公的」にもアベノミクスは2年近く前に終わっていたのだ。

 しかも、71か月間とされるその景気拡大期に実質賃金は0・5%減少している(8/29朝日)。一方、企業の内部留保は483兆円(20年3月時点)となり、直近5年間で117兆円も増えている。「世界一企業の活動しやすい国」をめざしたアベノミクスはその意味で「成果」をあげた。それをあたかも、労働者・市民にとってもプラスであるかのようにすりこみ、「政権への期待」をつなぎとめてきたのだった。

 例えば、日銀などの公的資金による株買い=株価つり上げや政財界結託した「官製春闘」=大企業中心の正社員賃金の引き上げ。マスコミは高株価が経済好調の指標だと言わんばかりに、アベノミクス宣伝に加担してきた。「賃上げ」を安倍の手柄にした。

 だが個人の株式保有は12・6%(18年度証券投資に関する全国調査)に過ぎず、株価が労働者・市民の生活を左右するようなものではないのは明らかだ。「景気拡大を実感できない」と答える人が84・5%(共同通信19年3月調査)にものぼるのは、当然である。

 安倍の経済政策はむしろ人びとの暮らしを直撃した。日銀とともに進めた円安は輸出企業には恩恵をもたらし、食料品やエネルギーなど生活に必要な輸入品が値上がりし、実質賃金低下につながった。最低賃金は当たり前に生活できる水準からは遠く及ばないままだ。

 これに加えて決定的だったのは2度にわたる消費税増税だ。長期デフレ不況=需要が低迷するなかで、さらに消費を冷え込ませる愚策が経済に与えた打撃は計り知れない。

 ここに新型コロナが直撃した。GDPの約54%を占める個人消費だけでなく、住宅投資・設備投資・輸出入などすべての費目が落ち込み、GDPは4分の1以上縮んでしまった。




命と暮らし優先に転換

 ではデフレ克服のために何が必要か。まず、検査と感染者保護を徹底するコロナ対策だ。命を守る保障がない限り経済活動は縮小したままになる。だが、新型コロナが落ち着けば景気は回復するのか。「コロナ前の水準に戻るには5年かかる」(元日銀審議委員、8/18東京)との予想がある。安倍と同じ経済政策が続くようであれば、5年かかっても回復などできない。

 必要なのは、大幅な需要喚起策だ。人びとの収入を増やさなければならない。最低賃金を含む賃金の大幅引き上げ、休業補償、消費税廃止である。福祉、医療、教育などの分野に重点投資し、需要を作り出すことだ。財源は、大企業と富裕層の応分の負担、軍事費の削減、GoToキャンペーンなど政策見直しで十分に生み出せる。

 人びとが切実に願うのは、命と暮らしを最優先させる政策だ。コロナ下だけでなく、新しい政治はそうでなければならない。
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