2020年09月11日 1640号

【安倍首相の辞意表明会見/投げ出しごまかす同情作戦/「やってる感」政治の命運尽きた】

 安倍晋三首相が辞任する意向を表明した。本人及びメディアは「持病の悪化」を理由にあげているが、これは2度目の政権投げ出しをごまかす方便にすぎない。新型コロナウイルスの感染拡大を防げず、「やってる感」政治が通用しなくなったときが、この政権の終わりだったのである。

「病気」を自ら宣伝

 「病気と治療を抱え、体力が万全でないという苦痛の中から、大切な政治判断を誤ることがあってはなりません。国民の皆さまの負託に自信を持って答えられる状態でなくなった以上、首相の地位にあり続けるべきではないと判断いたしました」

 安倍首相は8月28日の記者会見で、辞意を固めた理由をこう述べた。「志なかば」ではあるが、持病の潰瘍性大腸炎の悪化により、まさしく「断腸の思い」で「職を去る」ことにしたというわけだ。

 ふり返ってみると、8月4日発売の写真週刊誌『FLASH』が「吐血」を報じて以来、首相の「健康不安」説がメディアをにぎわせていた。しかも側近の閣僚や官邸関係者が「病状悪化」を裏付けるような情報をリークしまくっていた。やはりこれは辞めるための布石だったのだ。

 「安倍辞任」の報を受けた大阪府の吉村洋文知事は「持病を抱えながらも、長きにわたって日本を引っ張ってこられたことに感謝を申し上げたい」とコメントした(8/28)。「僕の中ではほんと、やさしい総理でした」とも語った。はっきり言って気持ち悪いが、安倍応援団としては百点満点の回答である。

 「辞任の意向」を一早く報じたNHKは、例によって岩田明子解説委員が官邸の代弁者ぶりを発揮し、世論誘導をくり広げた。「街の反応」の紹介でも、「続けてほしいが、体調が悪いなら仕方ない」「がんばりすぎちゃったのかな」といった好意的な意見ばかりを拾い上げた。

改憲無理で意欲喪失

 「病人を叩くのはよくない」という優しい気持ちに付け込んだ同情作戦にごまかされてはならない。今回の辞任劇は第一次政権のときと同じ「政権投げ出し」である。失態続きのコロナ対策への批判で内閣支持率が低迷。再浮上の展望も見いだせず、心折れ、逃げ出したのである。

 そもそも第二次安倍政権が7年8か月も続いた一因は、「やってる感」を醸しだすことに長けていたからだ。経済政策のアベノミクス、「北方領土」問題、拉致問題等々、いずれに対しても「全力で取り組んでいる」姿勢を見せることで、人びとの期待感をつなぎとめることに成功してきた。

 安倍首相はアベノミクスの成果について政治学者に聞かれた際にこう答えている。「(大事なのは)『やってる感』なんだから、成功、不成功は関係ない」。メディアを抱き込み嘘の数字を報道させれば、世論を欺くことなど簡単だと思っていたのだろう。

 ところが、新型コロナ対策では「やってる感」演出がことごとく空回りした。週刊新潮(9月3日号)の報道によると、安倍首相は周囲から勧められた政策(アベノマスクなど)を「良いと思ってやっても世論から批判される」と頭を抱えていたという。

 もちろん、世論の批判は忖度官僚が立案した愚策だけではなく、安倍首相自身に向けられた。空虚な言葉を羅列するだけの記者会見に多くの人びとが失望した。市民の命と健康を本気で守る気などないことが知れ渡ってしまったのだ。

 命綱だった経済政策も実は大失敗していることが露呈した(2面参照)。その結果、「景気・雇用」に最も敏感で、安倍政権の岩盤支持層と見られていた30代以下の層でも不支持率が支持率を大きく上回るようになった(8/3朝日)。これは「経済で支持を取りつけ、改憲を実現する」という戦略の破綻を意味する。

 産経新聞は「憲法改正や北朝鮮拉致問題、北方領土返還など、首相自身が掲げた課題の解決が実現できず、政治目標を見いだせなくなったことが辞意を後押しした可能性もある」(8/28WEB版)と指摘した。改憲の野望が潰(つい)えたことがコロナ禍の中のとんずらを決意させたというわけだ。さすがは御用新聞。首相の胸の内を理解している。

アベ政治の継続許すな

 「安倍さんをねぎらい、感謝しよう」的な風潮がつくり出されている時だから強調したい。「悪夢のような安倍政権」の終焉を諸手を上げて歓迎する。良心のかけらもない嘘つきが総理を辞めるのは日本や世界にとっていいことだ。

 ただし、頭は変わっても政策は同じという政権ができるのでは意味がない。アベ政治の基盤をなす戦争と新自由主義路線を転換させるために、今こそ市民の出番である。    (M)

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