2020年09月18日 1641号

【菅義偉首相という悪い冗談/民意を無視した政権たらいまわし/「安倍継承」なら市民の怒りも倍だ】

 自民党総裁選びは菅義偉(よしひで)官房長官で決着。安倍政権の悪事を隠ぺいするためには共犯者菅が「適任」だからだ。沖縄辺野古新基地強行、カジノ誘致、マスコミ統制などなどの実行犯が今度は陣頭指揮を執る極悪政権となる。破壊された社会正義や民主主義を取り戻すために安倍政権の犯罪を一つ残さず明らかにし、菅と自民党政治を終わらせなければならない。

忖度政治の元凶

 「安倍政治の継承」を掲げる菅は何を「売り」にするのか。出馬表明の記者会見(9/2)では、「私の原点を少し」と自らの出自(秋田の農家)を語った。対抗馬である2世議員の石破茂元幹事長、3世議員岸田文雄政調会長とは違う「たたき上げの苦労人」をアピールしたかったのだろう。

 マスコミ向けの話題作りを意識したものだが、逆に、政策に見るべきものがないことの証しだ。経済政策は「アベノミクスを引き継ぐ、日銀との関係は同じ」、「北方領土」や拉致問題も「方針に変わりない」。森友・加計問題、「桜を見る会」の疑惑については、「すでに結論が出ている。法令に則っている。今後あり方を見直す」と済んだ話として、再調査する気はさらさらない。

 「安倍政権とどこが違うのか」と聞かれた菅は、憮然として「役所の縦割りの弊害をぶち破って新しいものをつくっていく」と言うのがやっとだった。だがこれは「新しいもの」でもなんでもない。いままで菅がやってきたことだ。

 第1次安倍政権に始まる人事制度改革は2014年5月になって内閣人事局を発足させたが、菅は初代局長に内定していた警察官僚の杉田和博を衆議院議員加藤勝信に差し替えた。ともに官房副長官ではあるが、政治主導を明確にするためとの理由をつけたものの、菅の力を見せつけることに意味があった。(杉田は3年後局長に就いた。)

 ここから菅の官僚支配、つまり忖度(そんたく)政治が始まった。「総理の意向」文書の存在を証言した文部省事務次官前川喜平に対し、その素行をマスコミに流した内閣情報調査室。幹部職員を監視していることを公然化し、圧力をかけた。公文書の隠ぺいや改ざんは政権を守るためにはごく「普通の行為」となった。どの省庁も内閣官房の支配にあることを意識せざるを得ない。

沖縄つぶしが任務

 菅の暗躍で見過ごせないのは、沖縄辺野古新基地建設の強行だ。安倍政権が沖縄基地負担軽減担当大臣を新設したのは14年9月。以来6年間、菅がその職を担っている。「沖縄の皆さんに寄り添う気持ちが少なすぎた反省の上に立って、内閣全体として、できることは全て行う」と当時語った。実はこのポジション、2か月後に迫った沖縄県知事選対策だった。埋め立て承認を強行した仲井眞弘多(なかいまひろかず)に基地反対の翁長雄志(おながたけし)が挑む構図となり、地元自民党が割れた。そのテコ入れだ。

 結局、翁長が圧勝しても菅は「わが国は法治国家」「粛々と進める」と言い放った。国政選挙や県民投票で辺野古反対の民意が繰り返し示されても、言うことを変えていない。今回の出馬会見でも「地元の市長、県知事とも建設に合意した」と20年以上前の話を持ち出している。当時の岸本建男名護市長、稲嶺恵一知事が合意したのは「軍民共用」「15年使用期限設定」の条件付きだ。すでにこの条件を政府は反故(ほご)にした。つまり合意が破棄されていることを知った上での虚偽発言だ。

 菅は平気でうそをつける。「沖縄に寄り添う」は、機動隊の導入による建設強行となった。「違法工事」を指摘されても「問題ない」「指摘は当たらない」と取り合わない。「工事が進まなければ予算が少なくなるのは当然でないか」と交付金削減を正当化した。

 菅はこのやり方を首相となっても、変えることはない。活断層、軟弱地盤の存在も菅は「問題なし」とするのだろう。

新自由主義者

 菅は地域振興の鍵として「観光と農業」をあげる。今のところの直接的な利害関係業界と言うわけだ。

 コロナ感染の拡散を気にも留めず、GoToトラベルを強行したのは観光業界との関係を優先したものだ。外国人労働者導入拡大もそうだ。「農家の人手不足解消」と理由をつけているが、外国人労働者受け入れ団体の利権は大きい。

 農協改革や森林法、漁業法の「改正」を自分の手柄とする。いずれもその目的は、大企業参入に道を開くものだった。

 思えば菅は小泉政権の時、総務副大臣だった。その時の総務大臣は竹中平蔵だ。彼の新自由主義政策を直に学んだ。菅も「法人税減税で大企業の国際競争力を高める」と語る。規制緩和、民営化は間違いなく進められる。例えば、刑法が禁じる賭博の規制緩和。カジノ誘致は、「観光立国」政策の一部であるかのように語られるが、要は利権である。菅の地元、横浜市では市長が「カジノ誘致」に転向した。その背後には菅の存在があると言われている。

 「コロナ対策最優先」と言う菅だが、改憲も含め安倍継承と公言する。安倍政権はコロナ対策の失敗が支持率の一層の低下を招いた。菅に新たなコロナ対策が出せるとは思えない。コロナ以前に、「モリ、カケ、桜」問題で国家私物化が厳しく問われた。政権に絡む不祥事を処理してきた黒川弘務元東京高検検事長の定年延長について、1000万件に及ぶ抗議の声がツイッターにあふれた。

 こうした過程をともにしてきた菅は、自らの生き残りのために安倍と距離を置くことを考えたが、政権への近道だと「安倍継承」の看板を掲げた。であれば、この市民の怒りもまた引き受けなければならない。当事者として安倍政治の清算をさせる必要がある。

  * * *

 「(安倍首相の)ピンチヒッターですか? 残り1年だけやるという」。生出演のテレビ番組でそう聞かれた菅はムッとした。このやり取りがSNSで炎上しているという。「菅さんに対してひどい」。質問したキャスターを責めるコメントが殺到しているのだ。菅にはすでにネットサポーターがついているということか。それとも内閣情報調査室の仕掛けか。安倍腐敗政権の継承者、菅極悪政権を長引かせてはならないのは確かだ。

鉄面皮 菅の本領 出馬会見の1シーン

 テレビの生中継が終わると「あと2〜3問で」と会見終了予告。「逃げないでください」「出来レースじゃないか」と怒号が飛んだ。その後、質問にたった東京新聞望月衣塑子記者(左から2人目)にそっぽを向く菅(9月2日)
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