2020年09月18日 1641号

【新型コロナ 検査・医療・補償を/市民の要求を自治体・政府へ/声を上げれば動かせる】

 新型コロナウイルス対策を求める市民・労働者の闘いは、自治体を動かし、補償も検査もせず棄民政策を続ける政府との間に、生存権など憲法を基準にした明確な対抗軸を作り出している。市民の声や現場の要求で余儀なくされた厚生労働省通知なども活用し、全国で政府・自治体要請行動を強め、検査拡大をはじめ医療・補償・給付拡充を実現させよう。

 政府のコロナ無策は極限レベルに達している。7月以降の全国的感染再拡大の中でもGoToキャンペーンなど経済活動を最優先し、対策は「日常生活しながら3密回避、大声を出さない」(尾身茂新型コロナウイルス対策分科会長)だけ。この姿勢は、「自粛から自衛へ」として区まかせ、自己責任の小池百合子都知事、「イソジン騒動」の吉村洋文大阪府知事も同様だ。

 一方で、市民の声と運動は、政府の「補償なし」政策に対して自治体に独自の支援制度をつくらせてきた。休業事業者への協力金や家賃補助、子育て支援を含む市民個人に対する支援、PCR検査センターの設置などだ。

 しかし、現状では財政力によって自治体間格差ができ、地域によって命の値段がちがう≠ニいう事態になっている。そもそも自治体が国に代わってすべての補償を行うことは不可能だ。

 感染防止は、政府が徹底したPCR検査、休業補償、賃金・生活保障を行い、自治体は地域の特性に合わせた支援施策を国の交付金を財源としながら、地域で格差が出ないように実施することが必要なのだ。

自治体が政府に提言

 市民の闘いに背中を押された自治体は次々と政府に要望を出している。

 5月18日、18道県知事が緊急提言で「ごく軽症も含むすべての有症者やすべての接触者への速やかな検査/症状の有無に関わらず医療・介護・障害福祉関係者の優先的検査」を要望。5月末から6月初旬にかけて全国、指定都市、中核市の各市長会が相次いで「検査体制の強化/臨時交付金総額の増額と財政力にかかわらず地域経済及び市民生活の回復に必要な額を措置及び使途の自由化/病院経営の減収補てん」等を要請。直近では、8月8日に全国知事会が「予備費を活用した臨時交付金の増額/濃厚接触者以外も含む幅広い行政検査/医療機関への支援」を緊急に提言した。

 また、日本医師会は8月5日、「保険適用によるPCR等検査を行政検査の委託契約締結が無くとも実施可能に/全国各地にPCR検査機器の大幅増設/各地域に公的検査機関等の増設」などの「緊急提言」を発表している。

 市民や介護分野などの労働者の闘いに突き動かされたこれらの要望や提言は、政府との対抗軸を明確に浮き上がらせている。それは、主権者市民の幸福追求権、生存権、財産権を保障する憲法を基準にしたコロナ対策を行うか否かだ。

規制を実質突破

 こうした対抗軸の下で、政府や法の規制を実質的に突破する自治体施策が生まれている。東京都世田谷区は、「誰でも、いつでも、何度でもPCR検査をできる体制」(保坂展人区長)をめざし、当面区内すべての介護施設職員や保育士など2万人以上を対象にして、症状の有無にかかわらず4億円を投じて「社会的検査」としてPCR検査を行う。これは、症状を問わず希望者全員が無料で受けられるよう検査所700か所と1日6万2千件の検査で陽性率0・9%に抑え込み経済活動を再開したニューヨーク市をモデルにしている。

 千代田区も、区内の介護施設で働く職員全員に3か月ごとの定期的なPCR検査を8月6日から実施している。また、長崎県医師会は保健所を管轄する県、長崎市、佐世保市と委託検査の集合契約を締結し、PCR検査について無症状でも希望すれば地元のかかりつけ医などで受けられる体制を整備した。現状の1日平均120件から年内に1000件をめざす。

 現在、公費でのPCR検査は、感染症法に基づく行政検査で感染が疑われる者及び濃厚接触者だけに限られている。さらにその検体を採取できるのは、保健所等を除けば保健所を管轄する自治体と委託契約を結んだ医療機関のみで、現行法上、無症状者の検査を義務づける法的根拠はない。

 これを全国的に変えるためには、感染症法改正を含めた抜本的政策転換が必要だが、「感染症にかかっていると疑う正当な理由がある者」(感染症法)を拡大解釈させて実施させることは可能だ。東京都新宿区による歌舞伎町一斉検査などはその一例だった。

厚労省通知も活用

 市民の声を背景にした独自の検査や取り組みは確実に政府をも動かしつつある。

 厚労省は、7月15日付事務連絡で、有症者や濃厚接触者に限っていた検査対象を「感染の確率が高いことなどを条件に組織、地域に属する全員を検査の対象とする」方針を示した。8月7日付事務連絡では、「感染が発生した店舗だけでなく…地域関係者を幅広く検査対象とする」と店舗から地域へ対象を拡大。さらに、8月18日付事務連絡で、「感染者が多数発生している地域やクラスターが発生している地域においては、当該施設に感染者が発生していなくても医療施設、高齢者施設等の職員や入所者も行政検査の対象とする」通知を出した。

 これらは、市民の闘いの成果としての「拡大解釈通知」だ。政府が主導せず判断も財政も自治体丸投げという問題を抱えてはいるが、この通知をテコに各自治体に検査を拡大させていくことは可能だ。とりわけ、秋冬にインフルエンザが流行すれば、発熱患者があふれ混乱は免れない。検査拡大はまったなしだ。

  *   *   *

 私たちの闘いは自治体・政府を動かしている。PCR検査だけでなく、雇用調整助成金の特例措置などの12月末延長も表明させた。この闘いは、自治体を国の下請け機関におとしめグローバル資本のもうけの対象とする政府の新自由主義的政策に対し、憲法の基本的人権を地域から実現するという自治体本来の姿に取り戻す闘いでもある。

 街頭や訪問などで寄せられる市民の要求を基に、政府・自治体要請行動を地域からつくりあげよう。「いつでも 誰でも 何度でも 無料で」―コロナ検査の徹底拡大と適切な保護・隔離、医療の拡充、解雇禁止、個人給付、休業満額補償を実施させよう。

市民に押され自治体が政府に要望

◆18道県知事が緊急提言(5月18日)
 ごく軽症も含むすべての有症者やすべての接触者への速やかな検査
 症状の有無に関わらず医療・介護・障害福祉関係者の優先的検査

◆全国市長会、指定都市市長会、中核市市長会が要請(5月末〜6月初旬)
 検査体制の強化
 臨時交付金総額の増額と財政力にかかわらず地域経済及び市民生活の回復に必要な額を措置及び使途の自由化
 病院経営の減収補てん

◆全国知事会が緊急提言(8月8日)
 予備費を活用した臨時交付金の増額
 濃厚接触者以外も含む幅広い行政検査/医療機関への支援







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