2020年09月18日 1641号

【飼い主が安倍から菅に代わっても…/メディアは今日も尻尾振り/菅の好感度演出に全面協力】

 7年8か月も続いた第二次安倍政権。その秘訣はマスメディアの統制にあった。政権の圧力に屈した報道各社は「権力の監視」という本来の役割を忘れ、情報操作の共犯者となりはてた。安倍首相の政権投げ出しで主人が交替しても、その飼い犬ぶりが変わることはなさそうだ。

まるで「総理の慰労会」

 安倍晋三に抜かれるまで総理大臣の連続在任記録を持っていたのは、安倍の大叔父にあたる佐藤栄作だ。その佐藤が退陣を表明した会見(1972年6月17日)は大荒れに荒れた。

 新聞記者には話をしないと佐藤。「テレビはどこかね。偏向的な新聞は大嫌いだ」。この発言に対し、新聞記者たちは「内閣記者会として絶対に許せない」と反発、会見をボイコットした。空席だらけの会場で、佐藤はテレビカメラに向かって話し続けた…。

 あれから48年。マスメディアはすっかり政府に飼いならされた。安倍首相の辞意表明会見における記者の質問はヌルいものばかり。その様子はさながら官邸記者クラブ主催の「総理慰労会」のようだった。

 記者会見での追及不足はこの日に限ったことではない。安倍首相の会見は事前に提出された質問への回答を読み上げるパターンがほとんど(ぶら下がり取材も同様)。メディアも安倍も質疑の演技をしているのである。「“台本”営発表」「劇団記者クラブ」と揶揄されるわけだ。

 今回の辞任劇でメディアが腐心したのは、「政権投げ出し」の印象を与えないことだった。ご主人様に傷がつかないように「安倍政権の功績」をこれでもかと強調したのである。いわく「株価を上げた。雇用を改善した。日米同盟を強固なものにした。決められない政治から脱却した」等々。

 その甲斐あって、第二次安倍政権を「評価する」という人は71%に達した(朝日新聞の世論調査。9/2〜9/3実施)。共同通信の調査(8/29〜8/30実施)では、内閣支持率が一週間前に行われた調査から約21ポイントも上昇した。

 これらの数字が生活実感にもとづく実績評価の反映とは思えない。「病気で辞める人を悪く言うと叩かれる」「誉めておくのが無難」という空気が言わせたのだろう。報道が人びとの意識を規定したのだ。

報道統制の張本人

 では、安倍の退場はメディアの飼い犬体質に変化をもたらすのか。残念ながら、期待できそうもない。次の総理大臣の最有力候補とされる菅義偉(すがよしひで)は、官房長官として安倍政権のメディア統制を取り仕切ってきた人物だからである。

 集団的自衛権の容認について菅に厳しい質問を浴びせた『クローズアップ現代』の国谷裕子キャスターを番組降板に追い込んだ一件や、ニュース番組へのたび重なる恫喝など、この男が主導した報道への弾圧は枚挙にいとまがない。

 また、政府のスポークスマンであるにもかかわらず、記者会見では「その指摘は当たらない」「まったく問題ない」「個別事案への答弁は差し控える」といった答える気のない発言を連発(いわゆる菅話法)。説明責任を放棄してきた。

 めげずに食い下がる東京新聞の望月衣塑子(いそこ)記者に対しては、官邸職員による質問妨害や子飼いの番記者を使った嫌がらせをくり返し、ついには官房長官の会見から締め出した(表向きの理由は、新型コロナウイルス感染拡大の影響による取材人数の制限)。

今から媚びまくり

 メディアにとって菅は怖い調教師だ。その菅が次の総理になるのは確実とみて、今まで以上に尻尾を振っている。8月以降、各テレビ局が競うように菅を出演させているのが一例だ。ワイドショー番組の菅賛美は気持ち悪いほどである。

 「農家に生まれ、町工場で働いた苦労人」「世襲とは無縁のたたき上げ」「長期政権を支えた実力者」「甘いものが大好物」「女子高生も知っている令和おじさん」等々。陰険な印象が強い菅のイメージアップを買って出たのだろうが、政権の謀略活動を指揮してきた人物を「パンケーキ好きでかわいい」とは…。あまりにも極端な情報操作というほかない。

   *  *  *

 太平洋戦争中の1942年、内閣情報局の指導下にあった言論統制団体「日本新聞会」は記者登録制を実施。「国家観念を明徴にし、記者の国家的使命を明確に把握」した者であることを資格条件とした。かくして記者たちは総力戦体制に組み込まれていった。

 菅に媚びを売る今のメディアの姿を見ていると、歴史はくり返すという嫌な予感がしてならない。そうならないためにも、厳しい状況で奮闘するジャーナリストたちを私たち市民が支える必要がある。  (M)

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