2020年09月18日 1641号

【読書室/鉄路の果てに/清水潔著 マガジンハウス 1500円+税 /国はだまし、国民を見捨てる】

 著者の父は、第二次世界大戦で召集され、満州の鉄道連隊に配属された。終戦を満州で迎え、ソ連軍の捕虜としてシベリアに3年間抑留された。父は生前、その戦争体験の多くを語らなかった。本棚で見つけた亡き父の「だまされた」というメモ書きと地図。著者は、かつて日本軍が侵略した中国やシベリアの地を鉄路でめぐり、父が体験した戦争の事実を確かめる旅に出た。

 「満州国」を支配した関東軍に関する資料は、極めて少ない。ソ連軍の侵攻の前に、記録をすべて廃棄する命令が出されたからである。戦犯に問われぬために証拠を隠滅し、軍関係者、満鉄関係者はいち早く満州を放棄した。日本軍の細菌兵器部隊―731部隊は生体実験の痕跡を残さないように、「丸太」(人体実験された中国人捕虜)をすべて殺害、焼却し、施設を破壊し、専用列車で脱出したという。国策で送り込まれた「開拓民」と、兵士たちは捨て石となる。日本軍は自国民を見捨てたのだ。

 シベリアは、日本軍が2度出兵し(1918〜25年シベリア出兵、39年ノモンハン事件)、日ソ両軍に多数の戦死者を出した激戦の地だ。しかし、日本国民にその実態は隠されていた。当時のソ連指導部が日本人捕虜をシベリアに抑留した理由はこの2度の出兵にあるのではないか、と著者は極寒の大地で思う。

 最後に著者は「同じ過ちを繰り返さぬために。全てはやはり『知る』ことから始まるのだと思う。戦争はなぜ始まるのか…。知ろうとしないことは、罪なのだ」と締めくくっている。戦争の真実を知り、後世に伝えることは、改憲勢力による歴史の歪曲、修正との闘いなのである。   (N)
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